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街角で

大通りをわたり小路地に入り、誘われるように角を曲がると見覚えのある風景が広がった。

何ヶ月ぶりだろう?ここに来るのは。
すっかり忘れたと思っていたけど、身体は覚えていた。

初夏の宵。スコールのような夕立の後の、湿った夜風が心地よい。

オープンカフェのようになっている一角に、たくさんの人が立ったまま楽しげに談笑している。男性がほとんど、外国人も多い。でも目を凝らすと少し離れた場所に女の子達の集団もいる。座り込んで、何やら楽しげに話してる。その脇を通り過ぎる二人連れの男性。

(今日は何か…特別な催し物でもあるのかな…。)

ふと建物の側に寄ると、地下へと続く階段がぱっくり口を開けていて人々が吸い込まれて行く。聞こえてくるのは、ビートの利いた低温のリズム。



遠い日を思い出した。

誘われてここに来た。
わけのわからないまま手を引かれ、
一緒に踊った。


あれからもう随分経っていて、もう彼は居ない。
遠い場所に、行ってしまって会えない。

だからかな、ここに来てしまった。
まるで失ったものを追い求めるように。


おそるおそる暗い階段へと身を乗り出していたら、

「ごめんなさぁ〜い。」
と、背後から奇妙に裏声がかっただみ声。振り向いた顔先にオレンジ色のウィッグをつけた派手な化粧の若い男。一瞬視界いっぱいに広がったその顔の、うっすらと微かな髭の剃り跡が脳裏にこびりつく。

「す、すいません…。」
慌てて飛び退きうつむいた。胸がドキドキと早鐘を打つ。
嫌悪感と懐かしさが複雑に入り交じったような感情に自分でも戸惑いながら。

「やだ〜、この子、かわいいじゃな〜い。」
もう一人側に居た、更に気合いの入った化粧をした男が黄色い声をあげた。
「よしなさいよ〜。びっくりしちゃってるじゃない。」
オレンジ頭のいさめるような声に救われて思わずほっとする。
「ごめんなさいね〜、こいつインランで若い男の子に見境無いのよ〜。」

さりげなく頭を撫でられ、肩を触られ、呆然としたまま、はぁ、とよくわからない受け答えをしていたら、うふふ、とウインクして、そのまま二人はあっさりきびすを返して階段を下りて行った。

ふう、と一気に力が抜けて、壁にもたれかかる。

(…びっくりした。)

(でも、)

(………懐かしいよ。)

あの夜に似た賑わい、猥雑さ。
もう側に居ない人を思い出す。





そうしてさっき、踊りの輪の中で出会ったばかりの見知らぬ人といる。
背の高い、二重まぶたの優しげな瞳が似てる気がしたから、別にかまわないと思った。

鈍く光る照明。
閉ざされたカーテン。
塗り込められた窓。

背後に気配。微かな体臭。



これをすれば、見つかるのだろうか?
(失われた時間)
無くしたと思っていたもの。
(儚い恋の記憶)
埋まらない、何か。


緊張してるね、と言われたから、ええ、まあ、と言葉を濁した。

後ろ入れられるのは大丈夫?
念を押された。

そんなこといちいち聞いてくれるもんなんだな、とぼんやり思いながら、はい、と半ば自動的に答える。

クリームを塗る指のひんやりした感覚に身体が少しこわばったときだけ、懐かしい瞬間が蘇りそうになった。





無くしたものは何。
手に入れたものは何。
どうして、そこにいる。
これから、どこにいく。

誰の為に。


答えは無いけど、今日もここにいる。
ネオンとさざめき、音楽の喧噪の中で行き交う人びとを眺めながら一人、風に吹かれて。


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