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母さま
母さま

だんだん壊れていくあなたを僕はただ見つめるばかり。


誰かが僕を母さまに生き写しだといい、美しい衣装を着せた。鏡の中にいるのは女の子。微笑まなければ。そうすれば母さまも喜んでくれる。父さまもかわいがってくれる。

奇麗な着物。ほら、似合うでしょ。ねえ、僕は母さまに似ている?母さまの子供の頃もこんなふうだった?
尋ねたら、静かに母さまの、ディスプレイの奥の視線が光った。そして静かな声で一言、お前は私のものを何でもほしがるのね、と。




そのときはわからなかったけど、少し経ってから気づいた。
母さまは、昔の自分のように美しい顔で父さまに抱かれる、この僕に既に嫉妬しているんだ。

だけど、僕は知ってる。それでも母さまは僕を好きなのだということを。なぜなら、僕は結局の所彼女の息子だから。

息が詰まるくらいに彼女は女で、実際、そのためだけに生かされてきた。そんな彼女にとって、僕が本当の女の子でないという事実がこの奇妙な現状の中で心の支えになってる。
女でないなら最終的に母さまの地位を奪うことも無いからだ。
母さまが本物の「女」、妻であるなら、僕は永久的にその模造品。コピーでしかないというわけだ。

更にいえば現実問題として、僕が父さまをお慰めしなければ、代わりに使用人の娘が呼ばれるだけだ。母さまはよくわかっていた。それくらいならいっそ、自分に生き写しの息子を捧げたいのだ。イル兄さんは少し大きすぎる。世の中には大きい大人の男を愛する男性もいるのだけど、父さまそうでなかった。あの人は単に、若くて美しいものを弄ぶのがお好きなだけなのだもの。

そう、あの人にとって、女も子供も区別は無いのだ。だけど母さま、あなたは女としてあの人に抱かれることにそんなにも誇りを見いだしておられる。それは何故?




————その答えを、僕は知っている。
それは彼女が、ある一族の血を引く女、子を創れる存在であるというただそれだけのために、故郷の街から連れてこられあの暗い城の中に飼われてきたからだ。
女である、そのためだけに母さまは、数十年の人生を費やしてこられた。今、母さまに、父さまの女である意味、妻の座の空しさを問うことは、恐らく、これまでの人生全てに価値がないと宣告するに等しいだろう。



キル兄さまが出て行った後、母さまは一人で怒りだし、金切り声を上げた。
叫ぶ母さま。お怒りはわかる。だって、誰もあなたの声に耳を傾けない。
おじいさまも父さまも、昔からあなたの意思を素通りして何もかも決めてきた。



キル兄さまが家を飛び出す直前、確かに、高圧的な態度で兄さまを苛立たせたのは母さまだった。
「キキョウは少し、度が過ぎた。」
おじいさまが言い、父さまは母さまのやり方を尊重しないことに決めた。
もともと母さまの判断力を信頼してなどいなかったが、これまで子供のことだけは任せるつもりでいた。それも、今後はやめるということだ。

ハンター試験に出かける前イル兄さまが淡々と言った。
「母さんのお守りも疲れるけど仕方が無い。お前も俺も大変だな。」
僕は黙ってうなづいた。

でも、僕はこうも考えたのだった。

母さまが馬鹿みたいにしかみえないのは、父さま以上に父さまの意思に忠実であろうとしたからだ。ゾルディック家の跡取りを育てよという、父さまに与えられた命令に、父さま自身よりも真剣に取り組んでいた、その結果にすぎない。

(父さまの狂気と欲望を引き受けて、更に母さまは一人深く狂う。)

(他の者より弱く、役に立たず、城からろくに出ることも無い女であるだけの彼女に、この家の狂気を引き受ける以外何が出来ただろう?)


叫び疲れた声がいつしかすすり泣きに変わる。
使用人は遠巻きにして近寄ろうとしない。もういつものことでみんな、なれてしまっているのだ。



母さま、母さま、

僕は一人、母さまの長いローブの裾にすがる。

僕がお守りします。落ちついて。

空々しい台詞を言ってみた。まるで良い息子のように。
台本を読むような気分で、金襴をあしらった着物の裾が脚にまとわりつくのを感じながら。


今日、この格好でまた、父さまに抱かれに行く。
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