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雑念手帳

サイトの日記ですが、同人サイト訪問者様用に公開されたJUNK妄想雑文メモ置き場兼ねてます。「何となくこのキャラのイメージで出てきた妄想だけど限定はしない」系の小説未満な小話がごっちゃりです。

七夕(3)
(2)の続きです。これで完結。
3.


叫びだしたいたいような気持ちを押さえて、握りしめた拳が震えた。
その気配に、芦川がちょっと驚いたように振り向く。間近で一瞬目があった。
目を合わせるのがいたたまれなくて、反射的に僕は顔を背ける。
ごまかすように右手を伸ばし、いきなり後ろから相手の肩を抱いて、言った。

「ごめん。」

それ以上は言葉が続かず、膝小僧を見つめる。

やめろよ暑苦しい、とか押しのけられるかと思ったけど、芦川はそうしなかった。
ただ、ため息まじりの声でつぶやくのが聞こえた。

「…何でお前が謝るんだよ。」

僕は答えなかった。代わりに後ろから肩を抱くような格好のまま、腕に少し力を込める。それでも芦川は身動き一つしなかった。
ただ、夜風が吹き抜けた後、ぽつりと聞こえるか聞こえないかの声が闇に響いた。

「お前といると…自分が変になる気がする。」

芦川がどういう表情をしているのかは見えない。
でも、きっとまだあの透明な目でじっと虚空を見つめているのだろうと僕は思った。


「でも、お前も俺といると、時々変だよな。」

「…うん。」


きっと、誰よりもそうだ。

僕はうつむいたまま、頬を相手のもう一方の肩に押し当てた。
芦川はやはりされるがままにまかせている。
触れた部分から微かに芦川の鼓動を感じた。自分の心臓の音も聞こえる。


傷の舐め合い、っていう言葉がふと浮かんだ。
芦川の痛みと僕の痛みと、全然違うものだってわかってる。僕は今だって自分の勝手な気持ちで胸一杯になってるだけだ。だけど芦川も心が痛いから、二人でちょっと変になっててそれでいいやって受け止めてくれてる。


後ろめたい。
こんなんじゃいけないような、気がする。



…けど、気持ちいい。

側で誰かが息をしているのが、体温を感じるのが、とても。

だめだ、何も、考えられない感じ。



芦川、ごめん。
今だけは許して。



(…それとも、)
(ほんの少しでも…同じように感じてくれてる?)






何も言わずに、僕たちはしばらくそうしていた。

街の灯りに負けず光り続けるささやかな星空の下、虫の声が聞こえてきていた。静かだった。



本当に静かだった。







しばらくして、

「かゆい。蚊に刺された。」

ぼそりと言って何気なく芦川が僕から離れた。
ほら、と腕を見せて薄く笑った。
うわ、すごい、いつの間に、僕も笑った。





まるで何事もなかったみたいに、じゃあね、と手を振って別れて、少し歩いてから僕は振り返った。
街灯の明かりの下、すらりとした後ろ姿が遠ざかっていくのが見えた。そのまま立ち止まって見送る。


突然ふと、終わってしまった七夕に、僕は何か祈りたいような気持ちになった。

保育園だったか幼稚園だったか、ううん、もう小学校だったかも知れない。先生はよく僕たちに色とりどりの細長く切った画用紙を配って言ったものだった。七夕様にお願いする事は何かな?さあ、書いてごらん。
何を書いたのかはもう覚えていない。
でも多分、自分のことだったんだろう。
お母さんの事でも、今はもう一緒にいないお父さんのことでもなかった。

大きくなるにつれ、だんだん僕はバカにするようになっていった。
幽霊なんていないし、占いは非科学的だ。だから七夕も昔の人の迷信だよねって。
丁度同じ頃から、先生も色画用紙より小テストを配る方が大事だと思うようになった。

短冊に願いを書かなくなってからもうどのくらい経つのかな。


だけどあの旅をして、わかったんだ。
人には願わずにはいられない想いがある。
痛かったり、苦しかったりして、
例えその多くが叶わないと知っていても、祈ることをやめられないときがある。


現世でもそうじゃなくても、世界はいつも残酷だ。

誰かのために多くを犠牲にしたり、仲間のために自分の大切なことを諦めたり。
よかれと信じてしたことが思いがけない痛みを伴っていたり。


人が本当に叶えたいと思う願いって、きっと自分一人ではどうにもならないことなんだ。


だけど人は、いや、それゆえに、願うことをやめられない。
無力だから、どうしようもないから、
ただ、願うことでせめて前に進もうとする。

ほんの小さな一歩でもいいから、自分の足で。




そして僕もまた、性懲りもなく、祈りたくなったのだった。
今度は芦川のために。

——君のこれからの人生が幸多いものでありますように。君に何か願いがあれば、それが叶いますように。


何が幸せなのかは芦川が自分で考えて決めることだし、僕に出来ることといったら、せいぜいさっきみたいに話をするぐらいだ。わかってる。


でも、だからこそ星空の下、願い続けるんだ。



END




【作者後記】
これ書いて余計に、何だかまだ、自分の中でうまく考えの整理が出来てない部分もあるなってわかってしまいました。
特に映画版EDは…難しいですね。
要は制作者側としてはなんとなくハッピーエンドっぽく落とし前をつけようとしたということなんでしょうが、真面目に考えていくと状況を余計にややこしくしているという…
自分はといえばそのややこしさの中に絡め取られて、まだもがいているような気分です。
ただ、ごく個人的な解釈として、光になって消えたとき美鶴はやっぱ、死んだんだなっていうのがあります。そして亘の願いの結果としてアヤちゃんと現れた美鶴には、どうしても「三人目の綾波」的なものを感じてしまうんですね(エヴァネタごめんなさい)。つまり、殆ど別人物であるということ。だから関係性も築き直すしかないだろうと。その代わり、美鶴が幻界で犯した罪は、消えた美鶴の方が全て背負ったとの立場を取っています。だからアヤちゃんと一緒の彼はそれとあまり関係なし。
しかしこの設定だと、残された亘がやたらしんどい気持ちを引きずることになってしまうので、それは確かに不公平だよなあと考えてもいます。他人の人生を左右するようなイベントであの年齢で関わってその記憶と一生向き合ってなければいけないって、辛すぎますよね。うーん、難しい…

美鶴の家族全員復活という話を思いつかなかったのは、妄想する私の方の都合で、要は少しでもひねくれ魔導士さんと同じ部分を残したかった…(ごめんなさい)。
でもその設定で素晴らしいお話を書かれている方も多いので、素直にすごいなと思います。

なお、亘のモノローグが中1男子の思考ではないなあ…というツッコミはご容赦をυ
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