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よく分からない情熱のままに書いてしまった第二弾。やはり芦川がワタルのことを覚えていないという設定で。映画版が基本で小説のネタが弱冠入ってしまっていますが、ハルネラ設定が無いので、原作重視派の方からすればとてもズレたものになっています。ご注意下さい。
昨日、ゆめをみた。
彼がいた。
森の中、辺り一面が燃えていて、彼はそのまんなかにいる。
木々が悲鳴を上げて弾け、失われていくいのちの叫びが大気を震わせていた。
彼はまんなかにいた。
赤々と照らされて、マントが髪が熱風に翻る。
彼はじっとみてる。
瞬きもせず透明なまなざしで、ガラス玉のような瞳に炎が映り込んでいる。
みつる、
僕は叫ぶ。叫んで、駆けていこうとする。
だけど足が重くて動かない。
何度も叫ぶ。
だけど彼には聞こえない。
業火が全てを焼きつくしていく。
*
「おい、おい、三谷。」
「………?!」
「どうしたんだ。すごくうなされてたぞ。」
「…あ……。」
視界に映ったのはさっき夢の中で見たのと同じ顔。
「…あしかわ…」
見慣れた部屋。ベットの下に惹かれた布団をみてのろのろと思い出す。ああそうだ。今日はゴールデンウィークで、芦川がうちに泊まりに来てくれてたんだっけ。
「…ごめん、寝ぼけてた。」
「…みたいだな。」
微かに笑った白い口元が見えて、月明かりってずいぶん明るいんだ、と僕は思った。
寝汗が冷えてきて気持ち悪い。
「あんなにうなされて、いったい何の夢見てたんだ?」
「何って…」
僕はためらう。この芦川美鶴、幻界の記憶を持たない彼にその話をしたことはなかったからだ。
「…昔、知ってた人の夢、かな。」
「いつごろの?」
「一年くらい前。」
「俺が転校してくる前?」
「…そう、かな。」
「それで何でうなされてんだ?」
どうしよう?数秒ためらって、僕は口を開いた。
「旅をしているんだ。ちょうどRPGみたいなかんじ。広い世界があって…そこである日…」
ふと言葉につまり、芦川を見た。
月を背にして影になった顔の表情は定かでなく、まだ微かに笑っているようだと思ったとき——一陣の風が吹いた。
少し寝乱れた芦川の、明るい色の髪が舞い上がる。
夜風に木立がざわめき、開け放した窓のカーテンが巻き上げられ、月がかげる。
暗い。
側にいる芦川の顔がふいに見えなくなった。
つぶやきが聞こえたのはそのときだ。
(…見たんだろう。)
側にいるのに、遠いところからひびいてきたような気がした。
「…え?」
(俺が何をしてきたのかを、見たんだろう。)
「あし…かわ?」
(他の人間なんてどうだってよかった。目的のためなら何でも出来ると思っていた。)
細い声がひびく。表情は見えない。
月を隠された夜の闇がこんなに深いなんて、僕は知らなかった。
(なあ、俺は何処で…間違ったんだろう?)
ミツル。
ささやく唇がふるえた。
ミツルなんだね?
起き上がり、そっと手を伸ばす。
ワタル、ここは暗いな。
うん、月がかげってしまったんだ。
手探りで触れた頬は冷たかった。
おぼろげな輪郭を指でたどる。指先が閉じた目蓋に触れて、僕も目を閉じた。
ああ、闇がもっと深くなる。きっとミツルが感じているのと同じくらいに。
いま僕たちは同じ闇の中にいる。
ワタル、俺は、
どちらからともなく、僕らは抱き合っていた。
風の音にまじって低い囁き声が耳元にとぎれとぎれに、聞こえてくる。
俺は他に、どうすればよかったんだろう?
(いきること、そのすべてに)
(怒りが、憎しみがあった。)
(呼吸するたび、あたりに満ちていた。)
(このからだには、汚れた血が流れている。)
(俺を殺そうとしたあの男と、)
(妹を実の父に殺させたあの女の)
(己を憎み、世界を、運命を呪った。)
(どうして俺は、生き残った?)
(何故代わりに死ねなかった?)
(大切なものも守れなかった。)
(敗北と罪の記憶を背負って一人。)
(苦しいから、全てを感じないようにしようと思って、)
(でも出来なくて、願いにすがった。)
(のぞみ、いもうとの笑顔、奪われた運命をかえること)
(ただ、追い求めた。)
(他の全てが、みえなくなるくらい、ひたすらに)
(道を切り拓くため全てを犠牲にし、ついには己も滅ぼした。)
だから俺は、今も暗い場所にいる、声が言った。
月と星のあかりも届かぬような場所で、この業の炎が全て燃え尽きるのを待ち続けている。
ただひとり。
でもミツル、僕はそんな君に、
(ヴェスナ・エスタ・ホリシア。)
ずっとあいたかったよ。
それは、僕が唯一かなえられなかったのぞみ。諦められなかった願い。
僕はきみを、わかりたかった。理解したかった。
きみが抱え続けてきた絶望と、あたりを焼き尽くすような憎しみごと、君を。
だから最後のぎりぎりの瞬間まで、全身全霊をかけて追いかけた。
でも出来なかった。
僕は君を連れて帰れなかった。
別の未来を与えることで、君を過去ごと葬った。
運命の女神の光が、君をはぐくんだ闇を消し去ってしまった。
ミツル、叶うことならば…
抱きしめる腕に力を込める。
僕もそこに行きたいような気がする。
君を焦がすその炎に、いっしょに身を焼かれてみたいような気がする——
だけど、返ってきたのは皮肉に微笑む気配。
(ワタル、無理だ。これは夢だよ。俺はいないんだ。)
闇が晴れていく。また風がふく。
(現世の芦川美鶴は、妹と平和に暮らしているんだ。)
「…ミツル」
(お前と友達になって、帰りにゲームしてサッカーして、一緒に中学にもいって…)
「待って、ミツル、」
腕に抱いた体温が儚く消えていく、いつかのように。
(…一緒に旅をした、この俺はもう、どこにもいないんだよ。)
目を閉じたまま、月明かりだけを眩しく感じた。
がらんとした気配の前、立ちつくしたままつぶやく。
「それでも、僕は君を忘れないよ…」
*
気がつくと朝になってた。
休みだから家にいるお母さんの声がして、目が覚めた。
もう10時よ、二人ともそろそろ起きなさい。
重たい頭を抱えて起きあがる。
ベットの上に座ったまま床を見ると客用布団の上に安らかな寝顔。芦川だ。
昨日の夜の、どこまでが夢でどこからが現実か分からない。
ただ、ものすごく久しぶりな気がしてじっと白い横顔をみてたら、顔をしかめて、うーんと言って眼が開いた。
「何、人の顔見てるんだ…」
寝起きのかすれた声で、思い切り不機嫌そうな声が飛び、僕はほっとする。
よく眠れた?と訊くと、うーん、と芦川は言葉を濁し、お前こそ眠れたのか?夕べうなされてたぞ、と乱れた前髪を掻き上げた。
うん、ちょっと悪夢を見たんだ。
そう答えたとき、昨夜を思い出してちょっとどきどきした。
芦川は夢の内容を訊いてこなかった。
その代わりに、そっぽをむいてぽつりと言った。
「そういえば俺もあのあと、変な夢を見たよ。」
「…え、どんな?」
「お前と一緒に長い、長い旅をしてる夢だった。」
そして、舞台は懐かしい感じのきれいな場所だったと付け足した。
ゲームみたいな夢だよなと芦川は笑い、そうだねと僕も笑う。
ちょっとだけ泣きそうになったのは、太陽が眩しいと目をこすってごまかした。
ゴールデンウィークはまだ始まったばかりだ。
おわり
どうして自分が書くとこういう雰囲気になってしまうんだろう。というか、これじゃまるで地獄に堕ちてますね。小説のイメージとは激しく違うぞ勘違いだぞというのはまさにそのとおりです。
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