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イノセント(2)のつづきです。
3.夕陽
高校が同じになったから、通学で三谷とはちあわせる機会が増えた。
そのうち何となく、互いに予定が無いときは一緒に帰るようになった。
ある日の事だ。校舎裏に通りかかったとき偶然見てしまった。三谷が女子に呼び出しを受けていた。
そして案の定、やつは掃除当番だった俺より遅れて現れた。
「待たせてゴメン。」
「お前って、意外ともてるよな。」
「へ、何、芦川。」
しどろもどろになる。わかりやすいやつだ。
「み…見てたんだ?悪趣味だな。」
「ゴミ捨てに行ったら偶然通りがかったんだよ。裏庭でやってるんだから仕方がないだろ。」
三谷は黙り込んでしまった。狼狽しているのが見え見えで、夕映えに照らされているだけじゃない理由で耳が赤い。
この辺でスルーしても良かったんだが、ふと気まぐれが起きた。もう少し意地悪することにした。
「で、どう答えたんだ?」
「どう…って、そりゃあまあ…断ったよ。」
「へえ…」
橋を渡る。三谷の向こう、欄干を照らしながら沈む夕陽に一瞬俺は目をくれた。
「そりゃあ勿体ないな。かわいい子だったのに。」
「へえ、芦川はああいうのが好みなんだ?知らなかったな。」
そう言われるとふと俺も考え込む。
「いや、俺が特にというわけじゃないけど…」
そもそもどういう顔してたっけ?思い出せない。名前も知らないとなりのクラスの女子だった。
「…芦川はさ、」
橋を渡り終えたときだ。ふと三谷が立ち止まった。
「好きなやつとか、いるの?」
逆光で眩しくて相手の表情が見えない。一瞬考えて、いや、と俺は言った。
「今は別にいないな。」
「全然?」
「ああ。今は何だかそういうのあまり考えられない。」
嘘じゃなかった。実際、最近俺は何だかいつも別のことに気を取られているのだった。妹が学童保育でいじめられかけたこととか、俺と妹の生活費を援助してる親戚複数名の収入状況とか、特待生として入った高校での成績とか。
「…昔は?初恋とか。」
夕陽に負けそうなくらい細い声で、俺はわけもなくどきりとする。なんだよ急にくそまじめな顔で、と言おうとしたけど言葉が上手く出ない。
「さあ…わかんない。」
立ち止まったままの三谷より数歩先に進み、ようやく眩しすぎる夕陽を電信柱に隠す。
俺の答えに三谷が目を丸くしたのが見えた。
「芦川、ひょっとして初恋まだだったりするとか?」
「……。」
何だか虚を突かれて俺は三谷の顔をぽかんと見る。そんなはずないだろ、とも、そうだ、ともいえないどっちつかずな感情がせり上がり、のど元で絡まったまま止まった。
そんな俺を見て三谷がぶっと笑う。
「何だよ芦川、急に真剣な顔しちゃって。でも、ホントにいないの?それとも芦川のことだから忘れちゃったとか?」
そして、芦川は昔からやたらもててたもんなあ、でもそれこそ毎回つれなく断ってたよねえ、と話の筋から関係あるんだかないんだかわからないネタまで持ち出してくる。
「そういうお前はどうなんだよ。初恋の思い出だとかいちいち覚えてるのか?」
強引に話を振ってみた。
「そりゃあ…覚えてるよ。当たり前だろ。」
俺たちはまた歩き出した。
「へえ、いつごろ。」
「結構前かな。」
「中学?」
「いや…もっと前。」
「マセガキ。」
「…芦川に言われたくないよ。」
ぽつりとつぶやいた声が妙に寂しそうに感じて、俺はまた立ち止まり振り向いた。
「ん?どうかした?」
いつもの呑気な笑顔を浮かべた三谷を、夕陽が染めていた。
(4)につづく
高校が同じになったから、通学で三谷とはちあわせる機会が増えた。
そのうち何となく、互いに予定が無いときは一緒に帰るようになった。
ある日の事だ。校舎裏に通りかかったとき偶然見てしまった。三谷が女子に呼び出しを受けていた。
そして案の定、やつは掃除当番だった俺より遅れて現れた。
「待たせてゴメン。」
「お前って、意外ともてるよな。」
「へ、何、芦川。」
しどろもどろになる。わかりやすいやつだ。
「み…見てたんだ?悪趣味だな。」
「ゴミ捨てに行ったら偶然通りがかったんだよ。裏庭でやってるんだから仕方がないだろ。」
三谷は黙り込んでしまった。狼狽しているのが見え見えで、夕映えに照らされているだけじゃない理由で耳が赤い。
この辺でスルーしても良かったんだが、ふと気まぐれが起きた。もう少し意地悪することにした。
「で、どう答えたんだ?」
「どう…って、そりゃあまあ…断ったよ。」
「へえ…」
橋を渡る。三谷の向こう、欄干を照らしながら沈む夕陽に一瞬俺は目をくれた。
「そりゃあ勿体ないな。かわいい子だったのに。」
「へえ、芦川はああいうのが好みなんだ?知らなかったな。」
そう言われるとふと俺も考え込む。
「いや、俺が特にというわけじゃないけど…」
そもそもどういう顔してたっけ?思い出せない。名前も知らないとなりのクラスの女子だった。
「…芦川はさ、」
橋を渡り終えたときだ。ふと三谷が立ち止まった。
「好きなやつとか、いるの?」
逆光で眩しくて相手の表情が見えない。一瞬考えて、いや、と俺は言った。
「今は別にいないな。」
「全然?」
「ああ。今は何だかそういうのあまり考えられない。」
嘘じゃなかった。実際、最近俺は何だかいつも別のことに気を取られているのだった。妹が学童保育でいじめられかけたこととか、俺と妹の生活費を援助してる親戚複数名の収入状況とか、特待生として入った高校での成績とか。
「…昔は?初恋とか。」
夕陽に負けそうなくらい細い声で、俺はわけもなくどきりとする。なんだよ急にくそまじめな顔で、と言おうとしたけど言葉が上手く出ない。
「さあ…わかんない。」
立ち止まったままの三谷より数歩先に進み、ようやく眩しすぎる夕陽を電信柱に隠す。
俺の答えに三谷が目を丸くしたのが見えた。
「芦川、ひょっとして初恋まだだったりするとか?」
「……。」
何だか虚を突かれて俺は三谷の顔をぽかんと見る。そんなはずないだろ、とも、そうだ、ともいえないどっちつかずな感情がせり上がり、のど元で絡まったまま止まった。
そんな俺を見て三谷がぶっと笑う。
「何だよ芦川、急に真剣な顔しちゃって。でも、ホントにいないの?それとも芦川のことだから忘れちゃったとか?」
そして、芦川は昔からやたらもててたもんなあ、でもそれこそ毎回つれなく断ってたよねえ、と話の筋から関係あるんだかないんだかわからないネタまで持ち出してくる。
「そういうお前はどうなんだよ。初恋の思い出だとかいちいち覚えてるのか?」
強引に話を振ってみた。
「そりゃあ…覚えてるよ。当たり前だろ。」
俺たちはまた歩き出した。
「へえ、いつごろ。」
「結構前かな。」
「中学?」
「いや…もっと前。」
「マセガキ。」
「…芦川に言われたくないよ。」
ぽつりとつぶやいた声が妙に寂しそうに感じて、俺はまた立ち止まり振り向いた。
「ん?どうかした?」
いつもの呑気な笑顔を浮かべた三谷を、夕陽が染めていた。
(4)につづく
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