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ワタミツ中学一年生。全年齢向けですがややスキンシップ有り。お誕生日が近づくのにミツルが何故か学校を休み…という出だし。なお、映画EDでアヤちゃんはいますがご両親は心中事件で亡くなっている設定です。すみません。
1.
7月7日が芦川の誕生日だということを僕は知らなかった。
中学に入って同じクラスになって以来、時々一緒に帰っていたのだけれどそういう話は出なかったし、もともと誕生日だとか星座だとか血液型だとか、女子がキャーキャー言って騒いでるだけであんまり意味無いじゃん。占い?非科学的だし。なんて思っていた。
こういうことを言うとカッちゃんは「ワタルってなんっか頭硬いよな。いーじゃん楽しいんだから」とか笑うんだけど。
7月に入った頃から芦川が学校に来なくなった。風邪だって芦川の叔母さんは言ったけど、四日、五日とたっても現れない。さすがに心配になってメールしたら、一日以上たってから素っ気ない返事が来た。
「今調子悪いからあとでメールして。」
放課後、思い出したように宮原祐太郎が言った。そういえば6年の時も芦川はこの時期休んでたよ。三谷は違うクラスだったから知らないかもしれないけど。
週末が来た。土曜日なのにお母さんは仕事で、最近ハマってたゲームは昨日クリアしちゃったし、カッちゃんは今日は家の手伝いで店番だとかで遊べないし、何かやることない。
…お見舞いに行こうかな。
高い空に流れる雲を見ながらふと思った。
ちょうど借りたままになってる本もあったから。
ついでに休んでる間のノートやプリントももっていってあげようと思った。
*
芦川とアヤちゃんが叔母さんと住むマンションが見えてきたとき、足が止まってしまった。
メールや電話を入れるべきだったかなあと考えた。
でも芦川の調子がすごく悪いなら叔母さんに本だけ渡して帰ればいいし。
返す本だけじゃなくて、病気が治りかけて退屈ならと思って、読んでも面白そうな本を持ってきたのだった。
だけど僕はどうにも思い切りが悪くて、インターホンの前まで来たときもグズグズしていた。
すると後ろの方から、あら三谷君じゃない、と大人の女の人の声。
振り向くとそこに、芦川の叔母さんとアヤちゃんが立っていた。
買い物帰りのようで手からビニール袋を下げている。それとケーキらしき箱も。
「美鶴に会いに来たの?」
芦川は余り友達を家に連れてこないらしい。だからそんなにしょっちゅうあったことがある訳じゃないのに、叔母さんは僕のことをちゃんと覚えていた。
アヤちゃんは…大きくなった。初めてあったときはまだランドセルの方が身体より大きく見えるようなピカピカの一年生だったのに、すくすく背が伸びて、もう子供っていうより女の子って感じになってる。
「ねえ、見て、ケーキ。美味しそうでしょ。」
「ほんとだ。美味しそうだねえ。おやつ?」
それにしちゃちょっと立派だよな、と思いながら訊いてみた。
「ううん。お兄ちゃんのなんだよ。あのね、昨日お兄ちゃんの誕生日だったの。」
「えっ、そうなんだ。えーと…7月7日ってこと?」
「うん!でもお兄ちゃん病気だったから、今日お祝いするの。」
「そっか…。」
なんか邪魔しちゃ悪い感じだな、と思ったら、アヤちゃんがにっこり笑って言うのだった。
「ワタルくんもおいでよ。きっとお兄ちゃん喜ぶから!」
…そうなのかな?
何となく不安な気がした。
だけどアヤちゃんの勢いに押されるまま僕は芦川家へとついてきてしまった。
べつに悪いことしてるわけじゃない。玄関でプリント渡したら帰ればいいんだ。
「ただいまー。」
「…アヤ。」
芦川は顔が青かった。でもフツウに起きて動けてるように見えた。
「何で三谷がここにいるんだ。」
思い切り不機嫌そうな表情になるから、僕はついむっとする。
「…いやなら帰るよ。」
すると、
「そんな言い方するもんじゃないわ、美鶴。三谷君はプリント届けに来てくれたのよ。」
僕の声を上から掻き消すように芦川の叔母さんの甲高い声が響いた。
有無を言わさない感じの口調に聞こえたのは僕の気のせいだろうか?
上目遣いにちらりと叔母さんを見た美鶴は、そうか、と殆ど誰にも聞こえないくらい、口の中で呟くような声で言って目を伏せた。
叔母さんはさあどうぞ、とにっこり笑ってケーキを切り分けてくれた。アヤちゃんが、ねえねえ、ワタルお兄ちゃんのお誕生日はいつ?なんて話しかけてくる。
でも芦川は話に加わってこない。たまに話題をふっても、うん、ああ、と生返事。いつもよりだいぶぼんやりとしているようにも見えた。
真っ先にケーキを食べ終わったアヤちゃんが、お気に入りの番組を見るためにテレビの前に行ってしまった。叔母さんもかかってきた電話を取るために席を外した。
居間のテーブルに二人残されたとき、僕は改めて芦川に声をかけてみた。
「身体、もう大丈夫?」
ああ、と言葉少なに答えるその頬は白い。すぐに視線を下に落としてフォークでケーキをつついてる。僕はもうとっくに食べ終わってるのに遅いなと思って見ると、それもそのはず。皿の上でスポンジをどんどん小さく切ってばかりいて、なかなか食べようとしない。そして耳の上に覆い被さるように伸びた髪が無造作に頬に掛かるのをうるさそうにはらいながら、ちょびっとずつ口に運ぶ。
「風邪だったんだって?」
フォークを持つ手が、ふと止まった。
「…いや。風邪じゃない。」
あれ?違うの?と驚いたからだろう。思わず、気になってたことが口をついて出てしまった。
「そういえば、去年もこの時期休んでたって聞いたけど。」
「…この時期になると調子悪くなるんだ。」
「調子悪くなるって…」
戸惑って口ごもり、一瞬の間があいた。どうしようと思っていたら、芦川が気を取り直したように口を開き言った。
「朝起きられなくなる。」
「え、何で?」
「体温が下がって動けなくなる。原因はわからない。」
何、それって…ずる休みって言わない?
…と思ったけど敢えて訊いた。
「医者には行った?」
「…いや、起きれないときは行くどころじゃないし、治ったら平気になるから。」
芦川はケーキをばらばらにしながら、長い時間をかけて全部食べた。
*
帰り道、空を仰いだ。青い青い色をしていた。
側の空き地にはサッカーをしてる人たちがいた。
笑い声がきこえる。木々の緑。
(あれ?)
(なんだろう。)
(この感じ、どこかで…)
変な感じ。
何かが胸の中でつかえているみたいな、息苦しさ。
考えたけど分からなかった。
(2)に続く
【作者後記】
本当は7月中にうpしたかったんですけど…ダメダメですね。
7月7日が芦川の誕生日だということを僕は知らなかった。
中学に入って同じクラスになって以来、時々一緒に帰っていたのだけれどそういう話は出なかったし、もともと誕生日だとか星座だとか血液型だとか、女子がキャーキャー言って騒いでるだけであんまり意味無いじゃん。占い?非科学的だし。なんて思っていた。
こういうことを言うとカッちゃんは「ワタルってなんっか頭硬いよな。いーじゃん楽しいんだから」とか笑うんだけど。
7月に入った頃から芦川が学校に来なくなった。風邪だって芦川の叔母さんは言ったけど、四日、五日とたっても現れない。さすがに心配になってメールしたら、一日以上たってから素っ気ない返事が来た。
「今調子悪いからあとでメールして。」
放課後、思い出したように宮原祐太郎が言った。そういえば6年の時も芦川はこの時期休んでたよ。三谷は違うクラスだったから知らないかもしれないけど。
週末が来た。土曜日なのにお母さんは仕事で、最近ハマってたゲームは昨日クリアしちゃったし、カッちゃんは今日は家の手伝いで店番だとかで遊べないし、何かやることない。
…お見舞いに行こうかな。
高い空に流れる雲を見ながらふと思った。
ちょうど借りたままになってる本もあったから。
ついでに休んでる間のノートやプリントももっていってあげようと思った。
*
芦川とアヤちゃんが叔母さんと住むマンションが見えてきたとき、足が止まってしまった。
メールや電話を入れるべきだったかなあと考えた。
でも芦川の調子がすごく悪いなら叔母さんに本だけ渡して帰ればいいし。
返す本だけじゃなくて、病気が治りかけて退屈ならと思って、読んでも面白そうな本を持ってきたのだった。
だけど僕はどうにも思い切りが悪くて、インターホンの前まで来たときもグズグズしていた。
すると後ろの方から、あら三谷君じゃない、と大人の女の人の声。
振り向くとそこに、芦川の叔母さんとアヤちゃんが立っていた。
買い物帰りのようで手からビニール袋を下げている。それとケーキらしき箱も。
「美鶴に会いに来たの?」
芦川は余り友達を家に連れてこないらしい。だからそんなにしょっちゅうあったことがある訳じゃないのに、叔母さんは僕のことをちゃんと覚えていた。
アヤちゃんは…大きくなった。初めてあったときはまだランドセルの方が身体より大きく見えるようなピカピカの一年生だったのに、すくすく背が伸びて、もう子供っていうより女の子って感じになってる。
「ねえ、見て、ケーキ。美味しそうでしょ。」
「ほんとだ。美味しそうだねえ。おやつ?」
それにしちゃちょっと立派だよな、と思いながら訊いてみた。
「ううん。お兄ちゃんのなんだよ。あのね、昨日お兄ちゃんの誕生日だったの。」
「えっ、そうなんだ。えーと…7月7日ってこと?」
「うん!でもお兄ちゃん病気だったから、今日お祝いするの。」
「そっか…。」
なんか邪魔しちゃ悪い感じだな、と思ったら、アヤちゃんがにっこり笑って言うのだった。
「ワタルくんもおいでよ。きっとお兄ちゃん喜ぶから!」
…そうなのかな?
何となく不安な気がした。
だけどアヤちゃんの勢いに押されるまま僕は芦川家へとついてきてしまった。
べつに悪いことしてるわけじゃない。玄関でプリント渡したら帰ればいいんだ。
「ただいまー。」
「…アヤ。」
芦川は顔が青かった。でもフツウに起きて動けてるように見えた。
「何で三谷がここにいるんだ。」
思い切り不機嫌そうな表情になるから、僕はついむっとする。
「…いやなら帰るよ。」
すると、
「そんな言い方するもんじゃないわ、美鶴。三谷君はプリント届けに来てくれたのよ。」
僕の声を上から掻き消すように芦川の叔母さんの甲高い声が響いた。
有無を言わさない感じの口調に聞こえたのは僕の気のせいだろうか?
上目遣いにちらりと叔母さんを見た美鶴は、そうか、と殆ど誰にも聞こえないくらい、口の中で呟くような声で言って目を伏せた。
叔母さんはさあどうぞ、とにっこり笑ってケーキを切り分けてくれた。アヤちゃんが、ねえねえ、ワタルお兄ちゃんのお誕生日はいつ?なんて話しかけてくる。
でも芦川は話に加わってこない。たまに話題をふっても、うん、ああ、と生返事。いつもよりだいぶぼんやりとしているようにも見えた。
真っ先にケーキを食べ終わったアヤちゃんが、お気に入りの番組を見るためにテレビの前に行ってしまった。叔母さんもかかってきた電話を取るために席を外した。
居間のテーブルに二人残されたとき、僕は改めて芦川に声をかけてみた。
「身体、もう大丈夫?」
ああ、と言葉少なに答えるその頬は白い。すぐに視線を下に落としてフォークでケーキをつついてる。僕はもうとっくに食べ終わってるのに遅いなと思って見ると、それもそのはず。皿の上でスポンジをどんどん小さく切ってばかりいて、なかなか食べようとしない。そして耳の上に覆い被さるように伸びた髪が無造作に頬に掛かるのをうるさそうにはらいながら、ちょびっとずつ口に運ぶ。
「風邪だったんだって?」
フォークを持つ手が、ふと止まった。
「…いや。風邪じゃない。」
あれ?違うの?と驚いたからだろう。思わず、気になってたことが口をついて出てしまった。
「そういえば、去年もこの時期休んでたって聞いたけど。」
「…この時期になると調子悪くなるんだ。」
「調子悪くなるって…」
戸惑って口ごもり、一瞬の間があいた。どうしようと思っていたら、芦川が気を取り直したように口を開き言った。
「朝起きられなくなる。」
「え、何で?」
「体温が下がって動けなくなる。原因はわからない。」
何、それって…ずる休みって言わない?
…と思ったけど敢えて訊いた。
「医者には行った?」
「…いや、起きれないときは行くどころじゃないし、治ったら平気になるから。」
芦川はケーキをばらばらにしながら、長い時間をかけて全部食べた。
*
帰り道、空を仰いだ。青い青い色をしていた。
側の空き地にはサッカーをしてる人たちがいた。
笑い声がきこえる。木々の緑。
(あれ?)
(なんだろう。)
(この感じ、どこかで…)
変な感じ。
何かが胸の中でつかえているみたいな、息苦しさ。
考えたけど分からなかった。
(2)に続く
【作者後記】
本当は7月中にうpしたかったんですけど…ダメダメですね。
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