×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
Second Time
4.
簡単なものくらいは作れるから夕食でも食べていかないか、と誘ったけど芦川は断った。
折角だけどやることあるから、じゃあな、と恐るべき素っ気なさで靴を履いて出ていこうとする。
普段はどちらかというと去る者は追わず主義のくせに、その後ろ姿を見た途端無性に引き止めたくなった。
無理矢理後ろから腕をつかむ。
ちょっと驚いた顔で振り向いたのに何故かほっとする。とっさに何を言うべきかと考え、ありきたりのことを言った。
「またいつでも来いよ。」
すると相手が、ふー、と呆れたような表情をつくる。
「お前…そんなにヤリたいか。」
あれ、そう来るか。ちょっと可笑しくなった。
「まあ、それもあるけど…でも、それよりは…」
玄関で一段低い位置に立つ芦川がふっと上目遣いに見上げる。切れ長の鳶色の瞳が緊張感を称えて少し不安げに見えた。心拍と体温が僅かに上昇。
「…なんか、今日、来てくれて嬉しかった。」
芦川の眉がかすかにぴくりと動いた。相手が無言のまま俺を見つめるから、すごく恥ずかしいことを言った気分になった。表面はかろうじて平常心を装ってはいたけれど。
「色々、話も出来たし、というか俺が一方的に聞いてもらったようなもんだけど。」
寄り添ったまま他愛ない会話をしたときの感覚がふと身の内に蘇り、それが心地よいのに困惑する。
長いつきあいの友人に欲望をぶつけた。弱いところを見せた。今日の自分はいったい何なんだか。
芦川は相変わらず何も言わない。俺はまた余計なことを言いそうになる。
躊躇い、だけど沈黙に負けた。
「…芦川はさ、好きな奴とかいないの?」
蛍光灯の明かりの下、芦川が微かにうつむく。頬にかかる長めの髪が仄かな影を落とした。
「何を言うかと思えば、唐突だな。」
「そうだね。」
「いるよ。好きな奴。」
さらりと答えた声がやけにはっきりと耳に響き、俺の感情に上手く形容できない波紋を広げた。
なんだ。「愛がない」なんて、嘘じゃないか。
だけどポーカーフェイスなら俺も芦川といい勝負だから、そっか、と反射的に答え、笑顔のまま淡々とした声で質問を重ねる。
「そいつと付き合ったりしないの?」
「俺は誰とも付き合うつもりないんだ。」
即答だった。まっすぐに俺の目を見て言ったから、一瞬呆気にとられる。
「…誰とも?」
「そう、一人でいい。誰かを縛るのも縛られるのもいやだ。」
「一生?」
「それはまだわからないけど、今の気持ちが変わらなければそうなるな。」
端正な顔に、唇の端をちょっと引っかけるような笑みを浮かべて言った。
それを見て疑問に思うより先に、微かに痛みに似た感覚を覚えたのは何故だろう。
——そもそも、「つきあう」って何なんだろうな。
フクザツな家庭に育ったためか、恋愛と友情との区別でつまづくこの性質のせいか、とりあえず俺もガキなりに色々思いをめぐらせることがあった。
だけど誰とも付き合わない、という選択肢について考えたことはなかった。
そもそもどいう意味だろう?
文字通りに取ればそれは誰も選ばないということだ。
同時に、誰も捨てないと言うことでもある。
それは誰も近くに寄せたくないという意志の現れかもしれないし、むしろ逆に、一人を選ばず全てを愛し受け入れるという意味かもしれない。
色々な可能性がありすぎてくらくらしてくる。
一体、何故芦川はそんなことを?
こいつは、どこに行こうとしているんだろう。
ポーカーフェイスの下で、日々何を考え何を望み、生きているのだろう。
セックスして、短い会話をしてわかったこと、それはさっきまで触れあっていたこの友人のことを、自分が何も知らなかったという事実だった。
そう思った途端、俺はこのともだちが気になってたまらなくなった。知りたくてたまらなくなった。
どんな方法でもいい。近い距離で関わり触れていたくなった。
放課後の教室ですら出来なかったような話を、もっと聞きたい。
だから、さり気なく俺の腕を押しのけ行こうとするのを強引にとどめ、言ってしまったのだった。
「次もまたこうして会おう。」
「なんだよ急に改まって。明日もどうせ学校で会うだろ。」
「そういう意味じゃなくてさ。」
何か約束がしたいんだと付け加えると、相手は皮肉な微笑みを浮かべ言う。
「おい、回りくどい表現やめて、次もやりたいって言えよ。」
まるで防衛戦を張るようなその態度に、さっきもそうだったなと思い出す。
芦川はすぐに話をそっちに持っていく。
まるで、そうしないと落ち着かないとでもいうみたいに。
いや、最初からかな?
例えばあの日放課後の教室で芦川の髪を撫でたとき、俺は果たしてそのつもりだったのかな。ちょっかい出したくなったのは間違いないけど、感じていたのはもう少し曖昧な親愛の情じゃなかっただろうか。
実際にはもう思い出せない。いずれにせよ芦川が何かを言って即座にその些細な動作は性的な意味になり、こうなった。
俺はよくわからない混乱を覚えながら、至近距離にある鳶色の瞳にこう答えてみた。
「やりたいよ。でも同じくらい、もっと話せるといい…と思ったんだ。」
「話?」
「芦川のこと、色々知りたいから。」
怪訝な顔が俺を見上げる。
「…俺の何をだ。それに話なら別に今までだってしてきただろ。…友達なんだから。一応。」
微かな言いよどみと付け足された「一応」の言葉に、互いが今、微妙な距離にあることを改めて意識した。きっとこの瞬間何かを失敗したらきっともっと遠くなってしまうんだ。それだけはわかった。
「友達だったけど、こういう話はしたことなかったよ。だから…気になるんだ。」
必死でコトバを紡ぎながら、まるで恋の告白みたいだなと頭の冷静な部分がつぶやく。
「気になるから知りたいし、そのためにさっきみたいなこともしたいし…話したい。両方、欲しいって思った。」
彼女と別れた直後だというのに我ながら本当にしょうもない。
だけど少し普通と違うのは、俺がここで望んでいる関係には名前がないということだ。
誰ともつきあう気はないと言い、そのくせ誰かのことを想っているらしい芦川が俺は気になってたまらないのだから。
それは好奇心より親密で、友情よりも強烈で、当然情欲を伴い、しかし独占欲はさほどでもない。
ただ、つながってみたいという想いがある。
こういう感情を何と呼べばいいのだろう?
恋?友情?それとも?
自分ですら明確な答えのないまま、それでもだめ押しの一言。
「芦川だって、誰とも付き合う気がないなら問題ないだろ?俺と何をしたって。」
一瞬の沈黙。自分の鼓動の音をやけに意識した。芦川が、わかった、と小さい声で答える。
俯き、お前変なヤツだよな、とため息をつく。少し伸びた髪からかろうじてのぞく耳と頬が、うっすらと上気して動揺を表していた。
「…なんか、顔赤いけど。」
「お前が変なこと言うからだ。」
「そうだね、俺も自分で言っててだいぶおかしいと思う。」
「でも、悪くないかもしれないな。」
上目遣いの瞳がどこか悪戯っぽい光を帯びて俺を見るから少しだけ唇が震えた。掠れた声が出た。
「…それならよかった。」
「少なくとも、退屈しなさそうだ。」
「うん、それは保証するよ。」
じゃあ、急いでるところ引き留めてごめん、そう言ったら、妹が家で待っているんだと少しきまり悪そうにつぶやいた。
そうか、と答えさり気なく顔が近づき額と額が触れる。前髪がくすぐったいなと思いながら自分の方から恋人のようにキスを仕掛けた。
そのあと二人顔を見合わせ、少しだけ笑った。
FIN
前回の更新からどんだけ時間が経っているんだ…(汗
ただでさえマイナーカプで引っ張ってしまいました。お粗末様でございました。
冒頭、15歳の宮原がどの程度夕食の何を用意できるものなのかと一瞬考える出だしですが。
レトルトやインスタントもありで考えていることでしょう。
さて、芦川は誰が好きなのでしょう。
1.三谷あたりを勝手に片思い
2.実はそんなこといって宮原が好き
3.その他の可能性
うーん、どうしましょう。
+追記
すいません、文体とか少し調整しました。(2008/3/27)
4.
簡単なものくらいは作れるから夕食でも食べていかないか、と誘ったけど芦川は断った。
折角だけどやることあるから、じゃあな、と恐るべき素っ気なさで靴を履いて出ていこうとする。
普段はどちらかというと去る者は追わず主義のくせに、その後ろ姿を見た途端無性に引き止めたくなった。
無理矢理後ろから腕をつかむ。
ちょっと驚いた顔で振り向いたのに何故かほっとする。とっさに何を言うべきかと考え、ありきたりのことを言った。
「またいつでも来いよ。」
すると相手が、ふー、と呆れたような表情をつくる。
「お前…そんなにヤリたいか。」
あれ、そう来るか。ちょっと可笑しくなった。
「まあ、それもあるけど…でも、それよりは…」
玄関で一段低い位置に立つ芦川がふっと上目遣いに見上げる。切れ長の鳶色の瞳が緊張感を称えて少し不安げに見えた。心拍と体温が僅かに上昇。
「…なんか、今日、来てくれて嬉しかった。」
芦川の眉がかすかにぴくりと動いた。相手が無言のまま俺を見つめるから、すごく恥ずかしいことを言った気分になった。表面はかろうじて平常心を装ってはいたけれど。
「色々、話も出来たし、というか俺が一方的に聞いてもらったようなもんだけど。」
寄り添ったまま他愛ない会話をしたときの感覚がふと身の内に蘇り、それが心地よいのに困惑する。
長いつきあいの友人に欲望をぶつけた。弱いところを見せた。今日の自分はいったい何なんだか。
芦川は相変わらず何も言わない。俺はまた余計なことを言いそうになる。
躊躇い、だけど沈黙に負けた。
「…芦川はさ、好きな奴とかいないの?」
蛍光灯の明かりの下、芦川が微かにうつむく。頬にかかる長めの髪が仄かな影を落とした。
「何を言うかと思えば、唐突だな。」
「そうだね。」
「いるよ。好きな奴。」
さらりと答えた声がやけにはっきりと耳に響き、俺の感情に上手く形容できない波紋を広げた。
なんだ。「愛がない」なんて、嘘じゃないか。
だけどポーカーフェイスなら俺も芦川といい勝負だから、そっか、と反射的に答え、笑顔のまま淡々とした声で質問を重ねる。
「そいつと付き合ったりしないの?」
「俺は誰とも付き合うつもりないんだ。」
即答だった。まっすぐに俺の目を見て言ったから、一瞬呆気にとられる。
「…誰とも?」
「そう、一人でいい。誰かを縛るのも縛られるのもいやだ。」
「一生?」
「それはまだわからないけど、今の気持ちが変わらなければそうなるな。」
端正な顔に、唇の端をちょっと引っかけるような笑みを浮かべて言った。
それを見て疑問に思うより先に、微かに痛みに似た感覚を覚えたのは何故だろう。
——そもそも、「つきあう」って何なんだろうな。
フクザツな家庭に育ったためか、恋愛と友情との区別でつまづくこの性質のせいか、とりあえず俺もガキなりに色々思いをめぐらせることがあった。
だけど誰とも付き合わない、という選択肢について考えたことはなかった。
そもそもどいう意味だろう?
文字通りに取ればそれは誰も選ばないということだ。
同時に、誰も捨てないと言うことでもある。
それは誰も近くに寄せたくないという意志の現れかもしれないし、むしろ逆に、一人を選ばず全てを愛し受け入れるという意味かもしれない。
色々な可能性がありすぎてくらくらしてくる。
一体、何故芦川はそんなことを?
こいつは、どこに行こうとしているんだろう。
ポーカーフェイスの下で、日々何を考え何を望み、生きているのだろう。
セックスして、短い会話をしてわかったこと、それはさっきまで触れあっていたこの友人のことを、自分が何も知らなかったという事実だった。
そう思った途端、俺はこのともだちが気になってたまらなくなった。知りたくてたまらなくなった。
どんな方法でもいい。近い距離で関わり触れていたくなった。
放課後の教室ですら出来なかったような話を、もっと聞きたい。
だから、さり気なく俺の腕を押しのけ行こうとするのを強引にとどめ、言ってしまったのだった。
「次もまたこうして会おう。」
「なんだよ急に改まって。明日もどうせ学校で会うだろ。」
「そういう意味じゃなくてさ。」
何か約束がしたいんだと付け加えると、相手は皮肉な微笑みを浮かべ言う。
「おい、回りくどい表現やめて、次もやりたいって言えよ。」
まるで防衛戦を張るようなその態度に、さっきもそうだったなと思い出す。
芦川はすぐに話をそっちに持っていく。
まるで、そうしないと落ち着かないとでもいうみたいに。
いや、最初からかな?
例えばあの日放課後の教室で芦川の髪を撫でたとき、俺は果たしてそのつもりだったのかな。ちょっかい出したくなったのは間違いないけど、感じていたのはもう少し曖昧な親愛の情じゃなかっただろうか。
実際にはもう思い出せない。いずれにせよ芦川が何かを言って即座にその些細な動作は性的な意味になり、こうなった。
俺はよくわからない混乱を覚えながら、至近距離にある鳶色の瞳にこう答えてみた。
「やりたいよ。でも同じくらい、もっと話せるといい…と思ったんだ。」
「話?」
「芦川のこと、色々知りたいから。」
怪訝な顔が俺を見上げる。
「…俺の何をだ。それに話なら別に今までだってしてきただろ。…友達なんだから。一応。」
微かな言いよどみと付け足された「一応」の言葉に、互いが今、微妙な距離にあることを改めて意識した。きっとこの瞬間何かを失敗したらきっともっと遠くなってしまうんだ。それだけはわかった。
「友達だったけど、こういう話はしたことなかったよ。だから…気になるんだ。」
必死でコトバを紡ぎながら、まるで恋の告白みたいだなと頭の冷静な部分がつぶやく。
「気になるから知りたいし、そのためにさっきみたいなこともしたいし…話したい。両方、欲しいって思った。」
彼女と別れた直後だというのに我ながら本当にしょうもない。
だけど少し普通と違うのは、俺がここで望んでいる関係には名前がないということだ。
誰ともつきあう気はないと言い、そのくせ誰かのことを想っているらしい芦川が俺は気になってたまらないのだから。
それは好奇心より親密で、友情よりも強烈で、当然情欲を伴い、しかし独占欲はさほどでもない。
ただ、つながってみたいという想いがある。
こういう感情を何と呼べばいいのだろう?
恋?友情?それとも?
自分ですら明確な答えのないまま、それでもだめ押しの一言。
「芦川だって、誰とも付き合う気がないなら問題ないだろ?俺と何をしたって。」
一瞬の沈黙。自分の鼓動の音をやけに意識した。芦川が、わかった、と小さい声で答える。
俯き、お前変なヤツだよな、とため息をつく。少し伸びた髪からかろうじてのぞく耳と頬が、うっすらと上気して動揺を表していた。
「…なんか、顔赤いけど。」
「お前が変なこと言うからだ。」
「そうだね、俺も自分で言っててだいぶおかしいと思う。」
「でも、悪くないかもしれないな。」
上目遣いの瞳がどこか悪戯っぽい光を帯びて俺を見るから少しだけ唇が震えた。掠れた声が出た。
「…それならよかった。」
「少なくとも、退屈しなさそうだ。」
「うん、それは保証するよ。」
じゃあ、急いでるところ引き留めてごめん、そう言ったら、妹が家で待っているんだと少しきまり悪そうにつぶやいた。
そうか、と答えさり気なく顔が近づき額と額が触れる。前髪がくすぐったいなと思いながら自分の方から恋人のようにキスを仕掛けた。
そのあと二人顔を見合わせ、少しだけ笑った。
FIN
前回の更新からどんだけ時間が経っているんだ…(汗
ただでさえマイナーカプで引っ張ってしまいました。お粗末様でございました。
冒頭、15歳の宮原がどの程度夕食の何を用意できるものなのかと一瞬考える出だしですが。
レトルトやインスタントもありで考えていることでしょう。
さて、芦川は誰が好きなのでしょう。
1.三谷あたりを勝手に片思い
2.実はそんなこといって宮原が好き
3.その他の可能性
うーん、どうしましょう。
+追記
すいません、文体とか少し調整しました。(2008/3/27)
PR
コメント