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久しぶりにワタル×ミツルです。他の話とはパラレルで、二人はラブラブカップルという設定から始まります。年齢は高校生くらいかな…。二人でラブホに行くという話ですので、性描写はないですがやや大人向きということで12禁くらいに。
1.
高校生の恋愛はただでさえ障害が多い。
社会人より時間はあるが、金がない、場所がない。人目が気になる。うるさい親やら、好奇心いっぱいの級友やら。
そんなこんなで、亘と美鶴がオツキアイしてから三ヶ月ほどが過ぎようとしていた。
同性同士。最初それは、怪しまれずにお互いの家に入り浸る絶好の条件に思われた。
しかし甘かった。蓋を開けてみれば、二人で会える場所も時間も絶対的に足りない。
特に亘と美鶴の場合、家庭の事情も重なり、二人の愛はハードスケジュールをぬって育まれた。
亘は部活のない日に夕食の支度が入ったりする。
美鶴は帰宅部でこそあったが、妹の絢のためになるべく早く帰ったり、やはり食事の支度が待っていたり。
それでも最近進展があり、二週間ほど前についに一線を越えた。
土曜の午後で、亘の母邦子が趣味のフラワーアレンジメント講習会の集まりに出ていていなかった。午後中使って試行錯誤し、慣れないながらも初々しく愛を確かめた。
だが、問題はその後だった。
なかなか二人きりになれる機会がない。
いや、全くないわけではないが、あっても慌ただしい。
特にその午後以来今日までというもの、ただでさえインドア派の邦子が最近風邪気味で体調を崩し土日は常に家にいたため、絶対確実な時間帯は平日の亘の家、それも放課後、4時半頃帰宅してから母の邦子が帰る六時頃までが勝負だった。
関係が深まって間もない若い二人にとって、時計を気にしながら過ごさなければならないのは一種の責め苦に近かった。
だからある日の放課後、とうとう亘は言った。
「あのさ、美鶴。今度ラブホとか…試してみない?」
「…男二人でか?」
「入れるところ、あるらしいよ。ネットで調べた。」
その前の日、ゲームの新作の話に熱中しすぎて、時間不足で不完全燃焼のまま母が帰宅。
慌てて服を着て何食わぬ顔で過ごしたという経緯があったのだ。
こういうとき、美鶴は大抵難色を示す。今回もそうだった。別に今度じゃなくてもいいだろう、とかなんとか言って。
少なくともオツキアイが絡むことに関しては、意外と保守的かつ慎重なのだ。
新しいこと、奇抜なことを提案するのは亘の役目だった。それに美鶴はとりあえず一度は反対する。
しかし、亘がこだわると、言い出したのはお前だからな、とついてくるのだ。しかも大抵、フォローまで入れてくれる。亘にはもうわかっていた。
*
そして晴れた日曜の午後、二人は新宿にいて……いきなり道に迷っていた。
「おい、まだか?」
「んー、おっかしいなあ…。この地図だとこの辺のはずなんだけど。」
「地図見せろ。って、お前、これ逆方向だぞ。」
「え。」
最初から俺に地図見せろよな、とこういう時ばかりお兄ちゃんキャラに変貌する美鶴に、何言ってんだよ、全部僕に任せっきりにしてたじゃないか、と亘は唇を尖らせる。このあたりもいつものパターンで、見る人が見れば微笑ましい風景。だが当の二人はホテルを探すことに頭がいっぱいである。
美鶴に主導権が渡ること数分、あっさりと目標の建物は見つかった。
それを目の前にしたとき、二人は一瞬争いを忘れ、立ちつくした。
「こ、これか…。」
当たりは既に所狭しとラブホテルが建ち並ぶ区画だった。
陽光きらめく路地裏に、意味も無く派手な建物がそびえ立っている。その中でもひときわ異彩を放つ建物、ホテル・ミ・アモーレ。例えて言うなら、真昼のアスファルトに咲くウェディングケーキ。
それが二人の目指す城だった。
「おい、ほんとにここに入るのか?」
美鶴が躊躇の色をあらわにするのを遮るようにして、行こう、と亘は先頭切って突き進んでいった。
だが自動ドアが開き、外界の光とは全く違う人工的な柔らかい照明の空間に入ったとき、亘はかなり動揺することになる。
土曜の真っ昼間だというのに、そこには既に二、三組のカップルが部屋が空くのを待っていた。
全員がノンケ、つまり男女で来た人達だった。男二人は明らかに自分達だけ。しかも明らかに若い。
未成年かどうかは不問にするとしても、明らかに物慣れぬ様子の二人の少年が入ってきた、この状況が周囲の好奇心を惹き付けないわけがなかった。
傍らを振り返ると美鶴が居心地悪そうに俯いている。
(僕たち浮いてる…。)
緊張感がこみ上げ、ごくりと思わず唾を飲み込んだ。
亘は自分に言い聞かせる。
(大丈夫なはずだもん。サイトにはお一人さまでもオッケーって書いてあったし!)
だが、亘は一つ計算ミスを犯していた。
確かにでかいゲイタウンがある新宿で今時、同性二人組お断りとおおっぴらに言うようなホテルはない。
だがそれは決して、客の無遠慮な眼差しからも守ってもらえるという意味ではないのだ。
だからその些細な出来事も起きるべくして起きた。
十分ほどの待ち時間の後、部屋が開き、エレベーターに乗り込もうとしたときだ。
後から来た男女の笑いを含んだ囁き声が、亘の耳に飛び込んできたのだった。
「ねえ、あれひょっとして、ホモ…」
「バカ…声大きいよ。」
「だってぇ…」
そのあとクスクスと含みのある押し殺した笑いにヒソヒソ声。
聞こえなかったふりをした。けれど、亘はかあっと頬に血が上るのを感じた。ぎゅっと拳に力が入る。
たいしたことじゃないと思いながらも、横に並ぶ美鶴の顔が見れなかった。
そのまま逃げるようにエレベーターに乗った。
扉が閉じた時だ。ばん、と美鶴に背中を叩かれた。
「背筋、のばせよ。肩も力はいってるぞ。」
「う…うん。」
驚いたことに、最初来るのは渋っていた美鶴の方が、今は堂々としていた。
「気にするなよ。」
亘が答えを返す前に、美鶴は彼の手からチケットを取る。その上に書いてあるルームナンバーを確かめながら、事もなさげに言う。
「ああいう馬鹿はどこにでもいるから、言わせておけばいいんだ。」
国によっては、後ろから殴られたり、運が悪ければ殺されたりする場所だってあるんだぜ。それに比べれば全然マシだ。
物騒な話を展開する美鶴は何だかいつもより饒舌で、エレベーターが開くと、殆ど亘をリードする勢いでさっさと歩き出した。
今度はフロントとまるで違う、青い電飾の他は極端に照明を抑えた薄暗い空間だった。
道案内の蛍光板に導かれ、奥へ奥へと進みながら、亘は外界が真昼だったことを忘れそうになる。
さっきの笑い声はまだしつこく耳に残っていた。
別に面と向かって悪口言われた訳じゃない。
ただ後ろからちょっと笑われただけだ。
相手がどういう表情してたのかも見てない。どういうつもりで笑ったのかも、知らない。
なのに、痛かった。
それは不意打ちだったからってのと、あと多分、
側に美鶴、がいたから。
(僕一人だけが何か言われるのならまだいい。)
(でも、まるで僕がいるせいで、美鶴が侮辱されたように感じた。)
(僕のせいで美鶴が笑われたような気がしたんだ。)
美鶴が背筋を伸ばして毅然としていてくれたことが亘には救いだった。何よりありがたかった。
それでも部屋に入ったとき、美鶴が虚勢を張っていたことに気づいた。それも他愛ないことでわかった。
ドアの側の玄関に、自販機みたいなのがあって金を入れろとディスプレイに指示されている。フロントの会計に人を置かない体制のホテルなので、そこで金を払うことで鍵が閉まり外から人が入れなくなる仕組みだった。
美鶴が千円札を取り出して入れようとした。だがなかなか入らない。側でぼんやり見ていた亘はふと、その手が小刻みに震えていることに気づく。緊張し、狼狽していたのは美鶴も同じだったのだ。
次の瞬間、亘は後ろから美鶴を抱きしめていた。強く。
美鶴の方がまだ僅かに背が高い。だけど自分より一回り細い身体が腕の中に収まる感覚が心地よくて胸が疼いた。鼓動が重なる。そのまま首筋に口づけた。
「ちょっ、こんなところ、で、」
「うん。」
「おい、金、払わなきゃ、」
そういう声もどこかいつもより、弱々しい。
「…うん。」
聞き入れずにこちらを向かせ、そのまま唇を重ねた。離れようとするのを捉えて深く口づける。
だがそのとき、支払いを待つ機械が無粋な催促音をたてた。びくりと美鶴が振り向き、二人はばっと離れた。
別に誰が見ているわけでもないのに。
ディスプレイには「お金をお支払い下さい」の無機質な文字。ふう、と美鶴が息をついたのが聞こえた。亘はちょっとおかしくなり、ぶっと吹き出した。それが合図のように美鶴も笑った。緊張が解けた。
「僕たちかっこ悪い。」
「そうだな。」
もう一度だけ軽いキスをした。
(2)に続く
高校生の恋愛はただでさえ障害が多い。
社会人より時間はあるが、金がない、場所がない。人目が気になる。うるさい親やら、好奇心いっぱいの級友やら。
そんなこんなで、亘と美鶴がオツキアイしてから三ヶ月ほどが過ぎようとしていた。
同性同士。最初それは、怪しまれずにお互いの家に入り浸る絶好の条件に思われた。
しかし甘かった。蓋を開けてみれば、二人で会える場所も時間も絶対的に足りない。
特に亘と美鶴の場合、家庭の事情も重なり、二人の愛はハードスケジュールをぬって育まれた。
亘は部活のない日に夕食の支度が入ったりする。
美鶴は帰宅部でこそあったが、妹の絢のためになるべく早く帰ったり、やはり食事の支度が待っていたり。
それでも最近進展があり、二週間ほど前についに一線を越えた。
土曜の午後で、亘の母邦子が趣味のフラワーアレンジメント講習会の集まりに出ていていなかった。午後中使って試行錯誤し、慣れないながらも初々しく愛を確かめた。
だが、問題はその後だった。
なかなか二人きりになれる機会がない。
いや、全くないわけではないが、あっても慌ただしい。
特にその午後以来今日までというもの、ただでさえインドア派の邦子が最近風邪気味で体調を崩し土日は常に家にいたため、絶対確実な時間帯は平日の亘の家、それも放課後、4時半頃帰宅してから母の邦子が帰る六時頃までが勝負だった。
関係が深まって間もない若い二人にとって、時計を気にしながら過ごさなければならないのは一種の責め苦に近かった。
だからある日の放課後、とうとう亘は言った。
「あのさ、美鶴。今度ラブホとか…試してみない?」
「…男二人でか?」
「入れるところ、あるらしいよ。ネットで調べた。」
その前の日、ゲームの新作の話に熱中しすぎて、時間不足で不完全燃焼のまま母が帰宅。
慌てて服を着て何食わぬ顔で過ごしたという経緯があったのだ。
こういうとき、美鶴は大抵難色を示す。今回もそうだった。別に今度じゃなくてもいいだろう、とかなんとか言って。
少なくともオツキアイが絡むことに関しては、意外と保守的かつ慎重なのだ。
新しいこと、奇抜なことを提案するのは亘の役目だった。それに美鶴はとりあえず一度は反対する。
しかし、亘がこだわると、言い出したのはお前だからな、とついてくるのだ。しかも大抵、フォローまで入れてくれる。亘にはもうわかっていた。
*
そして晴れた日曜の午後、二人は新宿にいて……いきなり道に迷っていた。
「おい、まだか?」
「んー、おっかしいなあ…。この地図だとこの辺のはずなんだけど。」
「地図見せろ。って、お前、これ逆方向だぞ。」
「え。」
最初から俺に地図見せろよな、とこういう時ばかりお兄ちゃんキャラに変貌する美鶴に、何言ってんだよ、全部僕に任せっきりにしてたじゃないか、と亘は唇を尖らせる。このあたりもいつものパターンで、見る人が見れば微笑ましい風景。だが当の二人はホテルを探すことに頭がいっぱいである。
美鶴に主導権が渡ること数分、あっさりと目標の建物は見つかった。
それを目の前にしたとき、二人は一瞬争いを忘れ、立ちつくした。
「こ、これか…。」
当たりは既に所狭しとラブホテルが建ち並ぶ区画だった。
陽光きらめく路地裏に、意味も無く派手な建物がそびえ立っている。その中でもひときわ異彩を放つ建物、ホテル・ミ・アモーレ。例えて言うなら、真昼のアスファルトに咲くウェディングケーキ。
それが二人の目指す城だった。
「おい、ほんとにここに入るのか?」
美鶴が躊躇の色をあらわにするのを遮るようにして、行こう、と亘は先頭切って突き進んでいった。
だが自動ドアが開き、外界の光とは全く違う人工的な柔らかい照明の空間に入ったとき、亘はかなり動揺することになる。
土曜の真っ昼間だというのに、そこには既に二、三組のカップルが部屋が空くのを待っていた。
全員がノンケ、つまり男女で来た人達だった。男二人は明らかに自分達だけ。しかも明らかに若い。
未成年かどうかは不問にするとしても、明らかに物慣れぬ様子の二人の少年が入ってきた、この状況が周囲の好奇心を惹き付けないわけがなかった。
傍らを振り返ると美鶴が居心地悪そうに俯いている。
(僕たち浮いてる…。)
緊張感がこみ上げ、ごくりと思わず唾を飲み込んだ。
亘は自分に言い聞かせる。
(大丈夫なはずだもん。サイトにはお一人さまでもオッケーって書いてあったし!)
だが、亘は一つ計算ミスを犯していた。
確かにでかいゲイタウンがある新宿で今時、同性二人組お断りとおおっぴらに言うようなホテルはない。
だがそれは決して、客の無遠慮な眼差しからも守ってもらえるという意味ではないのだ。
だからその些細な出来事も起きるべくして起きた。
十分ほどの待ち時間の後、部屋が開き、エレベーターに乗り込もうとしたときだ。
後から来た男女の笑いを含んだ囁き声が、亘の耳に飛び込んできたのだった。
「ねえ、あれひょっとして、ホモ…」
「バカ…声大きいよ。」
「だってぇ…」
そのあとクスクスと含みのある押し殺した笑いにヒソヒソ声。
聞こえなかったふりをした。けれど、亘はかあっと頬に血が上るのを感じた。ぎゅっと拳に力が入る。
たいしたことじゃないと思いながらも、横に並ぶ美鶴の顔が見れなかった。
そのまま逃げるようにエレベーターに乗った。
扉が閉じた時だ。ばん、と美鶴に背中を叩かれた。
「背筋、のばせよ。肩も力はいってるぞ。」
「う…うん。」
驚いたことに、最初来るのは渋っていた美鶴の方が、今は堂々としていた。
「気にするなよ。」
亘が答えを返す前に、美鶴は彼の手からチケットを取る。その上に書いてあるルームナンバーを確かめながら、事もなさげに言う。
「ああいう馬鹿はどこにでもいるから、言わせておけばいいんだ。」
国によっては、後ろから殴られたり、運が悪ければ殺されたりする場所だってあるんだぜ。それに比べれば全然マシだ。
物騒な話を展開する美鶴は何だかいつもより饒舌で、エレベーターが開くと、殆ど亘をリードする勢いでさっさと歩き出した。
今度はフロントとまるで違う、青い電飾の他は極端に照明を抑えた薄暗い空間だった。
道案内の蛍光板に導かれ、奥へ奥へと進みながら、亘は外界が真昼だったことを忘れそうになる。
さっきの笑い声はまだしつこく耳に残っていた。
別に面と向かって悪口言われた訳じゃない。
ただ後ろからちょっと笑われただけだ。
相手がどういう表情してたのかも見てない。どういうつもりで笑ったのかも、知らない。
なのに、痛かった。
それは不意打ちだったからってのと、あと多分、
側に美鶴、がいたから。
(僕一人だけが何か言われるのならまだいい。)
(でも、まるで僕がいるせいで、美鶴が侮辱されたように感じた。)
(僕のせいで美鶴が笑われたような気がしたんだ。)
美鶴が背筋を伸ばして毅然としていてくれたことが亘には救いだった。何よりありがたかった。
それでも部屋に入ったとき、美鶴が虚勢を張っていたことに気づいた。それも他愛ないことでわかった。
ドアの側の玄関に、自販機みたいなのがあって金を入れろとディスプレイに指示されている。フロントの会計に人を置かない体制のホテルなので、そこで金を払うことで鍵が閉まり外から人が入れなくなる仕組みだった。
美鶴が千円札を取り出して入れようとした。だがなかなか入らない。側でぼんやり見ていた亘はふと、その手が小刻みに震えていることに気づく。緊張し、狼狽していたのは美鶴も同じだったのだ。
次の瞬間、亘は後ろから美鶴を抱きしめていた。強く。
美鶴の方がまだ僅かに背が高い。だけど自分より一回り細い身体が腕の中に収まる感覚が心地よくて胸が疼いた。鼓動が重なる。そのまま首筋に口づけた。
「ちょっ、こんなところ、で、」
「うん。」
「おい、金、払わなきゃ、」
そういう声もどこかいつもより、弱々しい。
「…うん。」
聞き入れずにこちらを向かせ、そのまま唇を重ねた。離れようとするのを捉えて深く口づける。
だがそのとき、支払いを待つ機械が無粋な催促音をたてた。びくりと美鶴が振り向き、二人はばっと離れた。
別に誰が見ているわけでもないのに。
ディスプレイには「お金をお支払い下さい」の無機質な文字。ふう、と美鶴が息をついたのが聞こえた。亘はちょっとおかしくなり、ぶっと吹き出した。それが合図のように美鶴も笑った。緊張が解けた。
「僕たちかっこ悪い。」
「そうだな。」
もう一度だけ軽いキスをした。
(2)に続く
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