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Mummy(2)

エンヴィー(一期)×ラース(一期)
Mummy (1)の続きです。注意書きは(1)の冒頭をお読み下さい。




地下に巨大な街。大気に溶けた美しいひと。
記憶が途中からとぎれているんだ。

鏡の中映った姿をみる。
そこにいるのは誰?
思い出したくもない誰かの姿が、たくさん、重なって揺れる。

手足をもらったって僕はあいつじゃないし、僕をすてた女をママなんて呼びたくもなかった。

そしてもうひとり、ホムンクルスの、あいつ。
もう忘れたいのに、でてくる。
黒い長い髪。うっとおしい。まとわりつく。

指の感触が残ってる。吐き気と共に思い出す、熱。
青白い焔、身体の奥、くすぶる。

許せない。
絶対に、許せない。

――――エンヴィー、嘘つき野郎


だって結局、忘れられなかった。結局、親父おいかけて行っちゃった。
人のことめちゃめちゃにして、嗤って、他のホムンクルスも馬鹿にして、自分だけ特別みたいな顔していきがってたくせに。
親父のこと、最後まで、こだわって、引きずられて、みっともなくあがいて、一目散に駆けていきやがった。
畜生。

すがるものなんていらないって、全てを殺せ滅ぼせって、あんなに力強く言ったくせに。
僕にママを、過去を切り捨てろと迫ったくせに。自分は全然出来てなかった。

(ならば、どうしてあんな余計なことをした)
(切り裂かれた肉と、熱)

教えろよ。
帰ってこい。

そしたらこんどこそ、ぶっ殺してやるから。

それとも、こっちから行ってやろうか?







飛び出して森や山をさまよった。あの場所に行こうとしたけれど、もうどうしてもたどり着けなかった。
錬金術はもう使えない。
だけど死にはしない。
決して、生きてもいないのだけど。

誰のことももうどうでもよくて、ただある日雨が降ったとき、機械鎧がきしみはじめた。
食べもしないのにボクの身体は動くのに、丈夫なはずの機械の方が先にイカれて、本当にもうどうしようもない。

でも、それでふと思い出した。

あいつ、何ていったっけ?

性懲りもなく幼なじみを待ってる、金髪の、ボクに機械鎧をくれた人間。

足を引きずって、歩いて、歩いて、歩いて、その村に着いた。どうしてかわからないけど、迷わずにその家を見つけた。まるでずっと昔から知っていたみたいに。
真昼の、影が一番短くなる時間だった。ドアを開ける。金髪頭の女、ウィンリィ、がボクを見て、ラース、とつぶやいた。
その向こう、部屋の奥のベッドに長々と寝そべった人影。黒髪の、みおぼえのある、だけど記憶の中にあるのより、ずっとやせこけた頬。
――あの女が、死んでいた。

なんだ。
これをみるために、帰ってきたのか。

心の中、張り詰めていた糸が切れた。目標を見失った気がした。





そしてまた月日が経って、ようやく僕はあの場所にたどり着く。
廃墟のオペラシティ。怪物になりはてたホムンクルスと戦って、叫ぶ。

「早く!!」

金髪の、あの兄弟の片割れに向かって、我が身を差し出すために。
僕と違って汚れてもいなくて、ちゃんと生きてる人間のそいつのために。

巨大な顎にはさまれ身体が砕ける。体液が吹き出る。
痛み。再生も始まる。はやく、はやく門を錬成して。

あのバカの行った場所に、僕も行きたくなったのさ。
向こう側、もう一つの世界で、触媒になったのがあいつだということは、わかっていた。

だけど、僕は知らない。
丁度そのとき、もう理性も人の姿も失ったあいつが、ついに愛しい人を捉え、かみ砕いていたのだということを。
僕たちの血で、門が錬成され、二つの世界が交差する。

絶叫のあと、一面の光。
そして僕も忘れる。

ただ、思い浮かぶのは一つのことだけ。世界は消えて、見えているのもただ一つの姿だけ。

ママ、ママ。

僕はかすかに笑う。

ママ、僕の本当のママ、僕を捨てた人よ。知ってますか。
僕はお前を恨んでいた。許せなかった。
お前が死んで、こんなことになるまで、ママと呼ぶことは出来なかった。

それでもあの女は笑っている。ただ笑っている。
両手を広げて、歩み寄る。光がまばゆい。
そうか、そうなんだ。お前はもう、それしかない。

だって死んでいるんだもの。

全てまばゆくて、何もかも、等しく飲み込んで受け入れてしまうんだ。

死ぬってきっと、そういうこと。

そして、僕も。

(…やっと、)


許すよ。全て。


(――もう、死ねるから。)


明るい虚空に手を伸ばす。
手と手が触れあって、思考が溶けた。




END
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