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透明な境界線

地味に二丁目デビューネタ。
どこがカヲル?という感じだし、そもそも男子でなくても全然かまわない気がしますがとりあえず元ネタはそこから出てきたから一応このカテゴリにしてみる。




初めてあの場所にいった夜の事を、今でもよく覚えている。

あの頃の自分はあの人の家で、まるで囲われるように住んでいて、もう何かが限界にさしかかっていた。
どうにも身動き出来なくなっていたんだ。保護者然としたあの人に食べさせてもらいながら抱かれる日々に絡めとられて。

だからある日バイト帰りの夜、手渡された給料を握りしめ、そのまま反対方向の電車に乗った。



自由…って何だろう。
今でも時々考える。
でも、電車の窓越しに派手なネオンのかかった看板が見えてきて、胸の鼓動が高まったあのときの気持を、他にどう表現すればいい?


いつも通り過ぎるだけだった巨大な駅へと降り立つ。
人ごみの中に紛れると、まるで自分が違う人間になっていくみたいな気がした。

一歩ずつ、前に進むたびに、日常がほどけていく。

マルイだとか小洒落た料理店やらの詰まった背の高い建物がぎっしり両脇に居並び、真昼のような光に満ちた大通りを進んでいった。
雑踏を通り抜けると、ふと景色が開け、暗く大きな交差点に出た。
風を切って走り抜けていく自動車を何台も見送る。
信号待ちをひどく待ち遠しく感じてついに渡ったとき、そこに未知の世界があった。


思わず、ネットでプリントアウトした地図を確認する。
こじんまりとした路地に飲食店が立ち並んでいる。談笑し通り過ぎる人々。目の前に広がる、見慣れているようでどこか違う風景。
注意深く見れば、本当にささやかに、虹色のモチーフを用いた看板が一つ。
少し進んで、確信した。オープンカフェに今度は堂々と旗が翻っている。
集っているのは、男達、女達。手をつないだり、身を寄せ合ったり、またはただの友人として。

(ああ、ここだ。)

立ち止まり、大きく息を吸った。
ガキが、片手に地図握りしめて、いかにもお上りさんって顔してる。
端から見ればバカみたいだろうけど、でも今はいい。

だって、


僕は一人でここに、僕の意志で立っている。
周りには知った人は誰もなく、誰に望まれたわけでもなく、僕を知る誰も僕が此処に居ることを知らない。だけど今、僕は確かにここに居るんだ。


地図の指す場所、こじんまりとしたハコがイベント会場で、プリントアウトしたフライヤーを握りしめ、暗く細い階段を下りていく。
地の底から響くビートに最初は身がすくんだ。
だけどだんだん、鼓動が共鳴しはじめる。
身体が熱くなっていく。
重いドアを開けたら、音の洪水。
揺れる人波。


この街で迎える僕の初めての、夜。


すれ違い様目が合った人に話しかけられ、微笑み返した。


手が差し伸べられ、握り返す。

何処の誰かも知らない、でも構わない。

二人踊りの輪の中に、飛び込んだ。



明日はまたいつもの日常が始まると知ってる。
朝起きて、学校行って、バイトして、あの人とセックスして、喧嘩して。

だけど、予感がする。今日この夜僕の中で何かが変わる。

きっと、変わるんだ。








あれから大人になって、色々な場所に行った。国境をいくつも超えた。
だけどどんなに飛行機で世界を駆け巡っても、あのとき踏み出したあの一歩ほど大きなものはなかった、そう思えてならない。

それは目に見えない、日常の中に引かれた透明な境界線を超えた瞬間だった。
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