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百年

グリエン。妙にアンニュイなエンビがいます。
忘れてしまうんだ。


最近は本当に、すぐに忘れてしまう。

時々足を運んだ田舎に鉄道が通って街が出来た。
間近で見ていたはずだったのに、百年前はなかったからね、そういわれてすっかり忘れていたと思い出した。


そして気づいて驚いた。

あれから百年経ったのか。


改めて歩き回るけれど昔の町並みなど一ミリも浮かんでこない。
まるで全て遙か前からそこにあったみたいな調和に目眩。
人間が移ろいやすいのは昔からだけど、風景までが何故にこうも忘れっぽい。
山や河はきっと変わっていないのだけれど、それすらも疑わしくなってくる。




本当にもう、いろんな事を忘れているんだ。

ずっと昔、まだ線路はなくて、川沿いに走る小道だけがあった。
二人で行くあてもなく、歩いた。
他愛ない話と憎まれ口ばかり叩いて。
適当に理由を付けて、じゃあなとそれぞれの場所に戻る時間を引き延ばしながら。


確かにそこにいたのだけれど、今は跡形もない。

思い出そうとしても、夕焼けだったとか風が冷たかったとか、それだけはやけに鮮烈な断片の中、肝心の輪郭はぼんやりと滲んでしまう。

目をこらして見定めようとすればするほどに確信が無くなってくる。
まるであの鉄道が無かった頃を思い描けないみたいに、まがいものの記憶がいけしゃあしゃあと混じり込んでいるんじゃないかと落ち着かなくなるんだ。



しまいには、あんたがいたことすらあやふやになってくる。
一日の最後、悪あがきの夕陽が放つ逆光に、その影も溺れ見えなくなってしまう。





ぼんやりと立ち止まり、柄にもなく俯く。
そばを金髪の子どもが二人駆けてった。

こいつらは鉄道が無かった事なんて知りもしないし、十年後には自分があんな小さな生き物だったことすら忘れてしまうんだろう。
そしてこっちもすぐに、今こうしてすれ違ったことすら思い出せなくなるに違いない。


………だといいな。








いつだったか、色欲が言った。

嫉妬、あなたはいつまでも執着しすぎる。

忘れなさい。覚えていることに意味など無いわ。

私たちは長い時を生きるのだもの。忘れなければ割に合わないわ。

人間達がめまぐるしく生きて死んでいくのに、景色も移り変わっていくのに、私たちだけが積み重なる記憶の重みに耐えなければならないなんて。

だから理性で線を引かなきゃならないの。
感情はいつも忘却の敵。

戻らない時間を、手に入らないものを思い返すのをやめなさい。

それはあなたにはもう関係がないの。切り捨ててしまうべきなのよ。
そして新しい情報に、思いに身を委ねるの。









百年が経った。

沢山忘れた。
記憶の中の光景はみるみる色褪せていく。


なのに、


打ち消しても、線を引いても、離れられない想いがある。

忘却に霞んだ曖昧さの中、感情の記憶だけは、まるで床に散らばって乱反射する硝子の破片みたいに鮮やかで、

踏み出すたび突き刺さり、痛い。


忘れられないことの苦しさと、忘れてしまう哀しさ、
喪失感と、割り切れていない自分。


その全て、一気に突きつけられ立ちすくむ。






本当に、いやになるよ。











ラスト姉さんの台詞は何か書きたかったみたいです。妄想120%。
本当は人間への嫉妬とか、その辺も盛り込みたかったんですがちょっとそれは失敗した。



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