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真昼の広場

「下がって下がって。」
真昼の広場は慌ただしかった。

「何?」
「殺人事件だってさ。」
「えー、マジで。」

詰めかけるマスメディア、張り巡らされたテープ、警官と検死官達。
その一角にある豪華なホテルで遺体が発見されたのは午前10時。
被害者は財界でも名のある大富豪だった。この国の政府要人と会談に来ていたところを殺害されたのだった。

「あのホテルって、守衛とかいるんだろ?従業員の仕業かな。」
「まずいよね。こんなことあって、客来なくなるんじゃない?」

俺は見てた。最前列で、見てた。そしたら、
「はいはい、下がって。下がって。」
ひょろ長い顔した警官にぐっと押しのけられて、ちょっとムカついたから睨んでやった。

「こら、乱暴だぞ、子供が居るじゃないか。」
その後ろから更に、低く落ちついた声が聞こえた。
こいつらのボスだな。

「あ、警部。はい。」
制服じゃなく背広を着たおっさんの前で、ひょろ長野郎がかしこまる。

小物は眼中に入れず、俺はそいつをじっと見た。
広い肩幅、厚い胸板。適度な年輪を刻んだ、だがまだ若々しい容貌。
そして、褐色の肌。
南の方から来た移民の子孫とすぐにわかった。ここまで上り詰めた奴を見るのは、この国では珍しい。大抵は場末のスラムに押し込められて、掃除夫かさもなきゃ失業、よくて麻薬売人くらいしか仕事ないって言われてるからだ。

偏見と差別に耐えて、のし上がったんだね。
いい学校も出てそうだ。
そして、何より有無を言わせぬ風格がある。

はは、かっこいいじゃん。
正義の味方ってか。

でもおっさん、悪いな。今回ばかりはこの事件迷宮入りだよ。


だって、そいつ、

…俺が殺したんだもの。







お昼ご飯の後片付けしながら、ラジオを聞いてた。
ミトさんが何となく音楽が欲しいって、いつものお気に入りの局をつけてそのままになってたんだ。
お皿を運んで、ミトさんが洗って、俺が白い大きな布巾でふいてテーブルに重ねる。

そのとき、のんびりとした音楽が不意に途切れ、ニュースが始まった。
きょうみないや、と思ってチャンネルを変えようとしたら、

「…国の首都中心部、歴史的な高級ホテルで猟奇的殺人事件が起きました。」
「被害者は世界的にも有名なロートキンデグループの総帥…」
「遺体は胸部に穴があいており、検死の結果から心臓が完全に取り除かれていることがわかりました。現場から凶器らしきものは見つかっていません」
「犯人は未だ見つかっておらず逃走中です。世界で最も治安のいい都市の高級ホテルで起きたこの猟奇的犯罪に、世界中の関心が集まっています。」

海の向こう、遠い外国の話だった。

「やだ、気持悪い。心臓を取るって…。すごい話ね。」
「…うん。」
「外国はやっぱり物騒ね。」
「うん…。」
「…どうしたの?ゴン。」
「どういうことを考えるのかな。」
「え?」
「犯人は心臓をとるとき、何を考えてたんだろ、って思って。」







真昼の陽光の中、俺はそいつを見上げていた。
男は俺の側に立ったままチョコレート色の額にうっすらを汗を浮かべ、横の部下に歯切れのいい口調でてきぱきと指示を伝えている。


知ってるか、おっさん。
俺がぶっ殺したそいつ、極右につながってたんだぜ。
あんたやあんたの同胞みたいなやつら、この国から全員追い出しちまいたいって思ってるやつらに金出してたんだ。次の選挙で勝ってくれるようにってさ。
裏の事情に通じてれば誰でも一度は聞いた事あるネタ。
そのくらいあんたも知ってんだろ。

だけど仕事だもんな。
殺しの犯人捕まえる方が警官にとっちゃ大事。
仕方ないよな。


俺もそう。これ、仕事だからさ。
何つっても、プロだからさ。
(今回の依頼は当然極右云々と無関係だけどね。)


ふと、男が俺の視線に気づいてこちらを向いた。
そして少しだけ微笑んだ。

まるっきり俺をガキ扱いして、何の警戒心もない笑みを向けやがったんだ。

口元からのぞいた整った歯並びが白くて、黒い目が俺を映してた。


急に、太陽を眩しく感じたのは何故だろう?


俺は思わず目を伏せた。




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