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冬の星座

宮原×美鶴です。以前書いたsecond timeと微妙につながってます。夜空の下で会話していい雰囲気…?というだけの話。

あれはとにかく寒い冬の夜だった。親の留守に遊びに来た芦川に、俺もコンビニに寄りたいから送っていくよと提案して、星空の下二人歩いていた。
二人で会うのは久しぶりだった。だけど、ただの友達でも恋人でもない変な関係は続いていた。
コンビニはあっちだし、流石にもうこの辺でいいから、そう言われ神社の鳥居と黒い木立が見えてきたあたりで立ち止まる。

でもどうしてだか、その日に限って立ち去りがたかった。天文好きの血が騒ぐ程度には星が綺麗だったからかも知れない。じゃあまたねと言おうとして、つい雑談をはじめてしまう。

「今日は本当に星座が綺麗見えるなあ。ここからだとオリオン座がみえるね。あと、シリウスも。」
「そういえば…何かの本で見たんだが、」
「ん?」
「シリウスが『焼き焦がすもの』という意味だっていうのは、本当か?」
「いや、俺は知らないその話。結構マニアックだね、芦川。」
「…神話の類は好きなんだ。」
「へえ…。」

俺はじっと相手の目を見たがすぐに言葉が出なかった。すると別に何も意図もなかったのに、妙な敏感さで芦川が俺の視線に反応する。

「何、じろじろ見てるんだ。」

居心地悪そうに前髪を掻き上げ、一人で何かを気にしている。あれ、どうしたんだろ?と思ってる俺の前で、突然、とどめの一言。

「…悪かったな、少女趣味で。」

え、何でその反応?途端に俺の中にもやもやとした気持ちがわきあがる。
そうか、神話好きなのか。意外な一面を見たような…。(でもあれって少女趣味なのかな?)
しかも勝手に恥ずかしがってるし…。俺何も言ってないのに、自意識過剰すぎ。
心の中にくすぐったいような変な気分がこみ上げる。だからつい、突発的に言ってしまった。

「芦川って……かわいいよね。」

「…は?」

相手はぽかんと口を開けて俺を見た。そりゃそうだろうな。話に脈絡無し。

「いや、何かかわいいなと思って。唐突に。」

「…本当に唐突だな。…何で。」

「いやなんだ?」

「ああ、いやだね。普通、同い年の男には言わないだろ。」

憮然とした声で芦川が即座に言い放つ。嫌がることは予想してたけど、その語気の鋭さに少し気圧された。

「どうして?」

訊くと、相手は眉根を寄せてますます機嫌悪そうな表情をする。

「かわいいって、見下す視点が入ってる。お前に言われると馬鹿にされているみたいでイヤだね。」
「…別にそう言うつもりはなかったけど。」

芦川に指摘され、確かに今まで彼女や子供にしか言わなかったことに気づく。でも、それって、

「じゃあ芦川は、妹がかわいいって思うとき、見下している?」

「…いや。確かに見下してはいない。でも上からの目線が入ってる。対等とは思ってないな。アヤは永遠に俺の妹だから。つまり、兄妹や親子の場合、その上下関係が理不尽じゃないってだけだ。それに対して俺とお前は同格だろ。だから、いやだ。」

流石に頭の回転が速い。…そして、アヤは永遠に俺の、のくだりはどことなく嬉しそうだった。シスコンめ。
だけど上下関係、その言葉がさり気なく俺の胸に突き刺さった。俺は同い年の元彼女をどう思っていたっけ。

考えて、俺は一つ答えを見つけた。

「お前の言うことはわかるけど、でも…俺はもう少し違うように考えてるかな。」

「へえ。どんなだ。聞かせてみろよ。」

「…かわいいって、人間らしいっていう意味とすごく似てる気がする。俺の中ではね。だから、本当は人間なんてみんなかわいいんだと思うんだ。」

「はあ。」

「まあ、実際にはそううまくいかないわけだけど…。例えばさ、親。」

「親?」

その日、部屋で二人でいたとき、少しだけ芦川に親の話をしたのだった。他愛もない話。昔から義理の父親と少しぎこちないとか、そういう類の。芦川はそうか、と相づちを打って聞いていた。多分適当にだけど。

「俺が親のことをかわいいって思わないとしたらさ、それは俺に余裕がないからだよ。親が、人間らしいなって微笑ましく思えるほど、俺はまだ大きくないんだ。ちっさいんだよ。」

確かにあの人達をかわいいと思うのはまだ難しいらしい、と心の中に一瞬影が差すのを打ち消して静かに笑う。
だから傍らにいた芦川の瞳が細まり、その虹彩にきらりと射るような光が走ったのには気づかなかった。

「でも、芦川くらいなら、それこそ同格だから俺だって余裕もって色々眺めるわけだ。今、どういう感じなのかなって。」

「…気持ち悪いやつだなお前。」

眉根を寄せてロコツに嫌そうな顔をして、頬にかかった髪を払う。俺は頓着せずに続けた。

「まあ、それで色々な表情とか反応を見てて、すごく人間くさいって言うか…上手く言えないけど、こう…」

言葉を探して俺は視線を彷徨わせる。だが目の前の、訝しげな鳶色の瞳とかちあったとたん、それをみつけた。

「なんか、ぐっときたんだよね。」

お前見てると、何か、ぐっとくるんだよ、何だ、要はそう言うこと。簡単なことに言葉をつくし長い時間をかけてしまった。
しかもこれじゃまるで、惚れたって言ってるようなもんだ。

「こういわれるのも嫌?」

「…お前、実は馬鹿だろ。聞いてる方が恥ずかしい。」

みるみる芦川の顔に血の気が昇っていく。そして多分、俺の方も。

「俺も自分で言ってて、さすがに恥ずかしいよ。」

俺たちは二、三度セックスらしきものをしたことがある。ついでに言えばさっきもしてた。
だけど特にお互い好きとかそういう話をしたことはない。

…あれ、ひょっとして今、告白みたいな事になってる?


「……。それ…言うためにわざわざ、ここまでついてきたのか?」

目を逸らしながら、側のガードレールに持たれ、無意味に指で鞄を指でいじりながら芦川。頬が赤い。

「いや。今、突然思い付いた。」

「…は、お前らしいな。」

「そうなのかな。」

芦川はそれ以上答えなかった。
俺はそろそろ分かってる。こいつ、肝心なことは言わないんだ。人に訊いておいて答えない。
でもまあ、今はいいや。確かに全てが、唐突すぎるし。

沈黙が落ちた。無言でいると冬の寒さが少しずつ染みこんで、身体が漂白されるみたいに感じる。寒くて辛いのと、清々しいのの中間みたいな不思議な感覚。



少ししてからぽつりとつぶやく声がした。

「人間は全てかわいい、か。」

その、どこかこの世ではない場所を想うような調子に俺はどきりとする。
芦川の目は遠くを見ていた。

「確かに本当に心の底からそう思える奴がいたら……」

俺はつられてその視線を追いかけ、神社の黒い木立の向こうへと目をこらす。遠い、遠い場所は俺には見えなかった。


「それこそ、神だな。」

俺の傍ら、聞こえるか聞こえないかの囁きが闇に溶ける。
きっとその時、芦川には神様が見えていた。
理由はない。ただそう感じた。




白い指がそっと伸びて、俺の腕を捕まえる。もう行くから。
うん、と答えたとき、ふわりと柔らかい感触がして、一瞬だけ唇が重なった。

大胆だねと言うと、親の家であんなことするやつよりマシだと目を伏せて少し笑う。
そして照れた顔のまま、じゃあな、と素っ気ないくらいの潔さできびすを返した。



振り返らない後ろ姿を見送りながら、そっと唇を押さえる。まだ残る微かな感触。
夜空には冬の大三角が輝いていた。

シリウスと共に。




【あとがき】

うおお、久しぶりの更新がこれでちょっとごめんなさい…。



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