Mummy (1) エンヴィー(一期)×ラース(一期)R18 暴力的な性行為および子どもの性的虐待を暗示する描写を含みます。 嫉妬は奪われた子どもだった。 だから誰よりも多く、奪うことを知っていた。 完膚無きまでに、傷つけることも。 * 暗い小部屋に投げ込んだ。 子ども。作られ捨てられた、残骸だったモノ。 俺の手から石を奪い、貪るように食べていた。 ついこないだのはずだ。だがまるで遠い昔のよう。 「おい、」 答えはない。うつぶせたままだ。 「こっち向けっていってんだろ。」 「…っ、イヤだ!離せ!」 抵抗したから床に殴り倒した。 よろよろと起き上がり、ぎりっと歯を食いしばる。憎しみにきらきら光る瞳で俺を見上げた。 その片方の頬は焼けただれて、醜い。 でも、だからかな。 変なスイッチが入った。 「!?…何、を、っ…!」 細い脚をつかんで引きずり寄せ、加減せぬ力で地面に押しつける。ぐっと咳き込むようにガキがのけぞった。喉が白い。 それは闇の縁からきた者の、日の差さぬ場所に生まれた者が持つ肌の輝き。 苦しみもがく様は、まるで人間のガキのよう。 化け物じみた赤子からよくぞここまで育った。それだけでも褒めてやるさ。 だけどそこから残念賞。お前はこの先大きくならない。 同じ形のまま、同じ石を食らい、いつまでも生きるのさ。 この、嫉妬のようにね。 (ああでも、プライドっていう例外もあったっけ?) ふと、妙な考えが降りてきた。 役にも立たないことを教えてやりたくなったんだ。ただの、気まぐれ。 (性欲と攻撃衝動の境目が、曖昧になる瞬間を知ってる) 両腕を完全に封じこめ、ばたばたと暴れる両脚を膝で割り覆い被さった。至近距離で見開かれる目。 どうせこいつはこの姿のまま、一生を終えるんだ。 ならば今、俺がそれを、ここで与えて何が悪い? 無造作に手を伸ばす。 「エンヴィー、なに、やめ…。」 クソガキ、何が起きるか、わかってないだろ。 ああでもさすがにコレは、人間のガキだって、わからないよなあ。 嗤う。 「う、ぐ、ぎゃアアアアアアアッ…」 肉が裂ける。食い込む。 (熱い。) (はらわたの熱。) そこ、はきれいなもんだった。 当たり前か。 俺たちはまともに食べなけりゃ、排泄もしない。汚れようがない。 「痛い、痛い、痛いいいいい、ウワァアアアアア、」 こういうことでもしなきゃあな。 「アッ、グギャアアーーーーーーッ、ンぐッ……!」 「うるさいんだよ。」 うるさい口を片手で塞いで、顔が歪むほどの力で容赦なく押さえつける。 満面の笑みで笑いかけてやれば、苦痛と恐怖、怒りに満ちた瞳が俺を見上げ、涙を浮かべながら口惜しそうに呻く。なりふり構わない抵抗を全て封じられ、出来るのは、だらしなく俺の片手を唾液で汚すことだけ。 ああ、最高。 そのまま残りを全部ぶちこんだとき、一瞬、目を閉じた。 記憶の闇。 (…俺はいつ、知ったのだっけ。) (人間の頃の思い出が混じって判然としない。) (まがい物でしかないのに、記憶すらこんなに不純物だらけ。どうしようもない。) (暖かな寝台の上ではなく、冷たい床に跪いていた気がする。) (豪奢な、しかし牢獄のような屋敷。あれはどこ。) (笑ってはいなくて、でも泣いてもいなかった。) (そして傍らにいたのも、年相応の娘ではなかった。) (大きな人影、あれは誰。) (覆い被さってくる。) (記憶を汚しに来る。) (俺を汚して、殺して、生き返らせて、そして捨てた、あれは――) (思い出したくない。) (もう、思い出さない。) (だって、意味なんかないさ。そうだろ?) 口のいましめを解いてやると、ひー、っと掠れ声を上げて、ガキはむせた。 微かに動く唇、浮かんだ単語はすぐに読み取れた。相手が声に出す前に先手を打ってやる。 「…ママか?」 ガキは悶えていた。身体の自由を奪われ、鋭い痛みに貫かれながら、どうにも出来ずやるせなく、けいれんするように、言葉にならない叫びをあげる。のど笛をひくつかせながら。 滑稽だから、更に追い打ちをかける。 「スロウスなら助けに来ねぇよ。知ってんだろ。死んだんだ。目の前で、消えた。」 苦しめよ、クソガキ。 「だいたいあれはお前の母親なんかじゃない。お前のは――お前は、」 一旦、息を継ぐ。そしてとどめの言葉。 「捨てられたんだよ!」 叫ぶと同時に、深い一撃。 つんざくような絶叫が耳をついた。 (くだらないんだ、全部) (だから、滅ぼしてやる) (人間が死に絶えて、最後の一人になれば、いつか思い出さなくてもよくなる) (その日のため、生きてる) 何度か揺さぶって、放った。快楽はなかった。 ただ痙攣と共に放ったあと、驚くほど頭が冴えた。 今まで犯したどんな罪のあとよりも、冷たく、冴えた気がした。 * ガキはぐったりと床にうつぶせている。 両手を投げ出し、放心したように脚を弛緩させ、尻を晒したまま。 ぱっくりと開いたその場所から、濁った赤い液体が一筋、流れを作っている。 だがみるみるうちに血は渇き、傷が再生する。 ホムンクルスなんだ。どうせ傷痕なんて残らない。 この俺と同じように。 きびすを返し、出て行こうとした。 だがその時だ。 細い声で、つぶやきが聞こえてきたのは。 「…ママ、」 思わず、ぎょっとして足を止める。 「…ママ、ママ、ママ、ママ…ママ…っ、」 うるさい、と低い声で吐き捨てる。ぴたりと、声が止み、沈黙。しかしそのあとすすり泣きの声と共に、また始まる。ママ、ママ、ママ。 「黙れ!」 思わず叫んだ。感情が乱れた自分を自覚しつつ、振り返る。肩で大きく息をした。 「ほんっと、うるさいなァ…。」 身を震わせる小さな身体の側にかがみ込むと、自分の長い髪がはらりと落ち、ガキの乱れた黒髪に混じる。同じ夜の色、区別がつかない。 耳元で低く、歌うように囁いた。 「…言っただろ。そんなものはいないんだ。今だって誰も…助けに来なかっただろ?」 まるで兄がするようにやさしい声音で、しかし、無慈悲な言葉をくれてやる。 「ママなんて、お前にはもういないんだよ。」 一瞬の沈黙。そのあと堰を切ったように嗚咽が大きくなり、声を上げてガキは泣き出した。 追いつめられ獣じみた声。だがおかげで、もうあの忌まわしい言葉を吐くことはしない。 ただ身を震わせて、悲嘆に暮れている。 そうだ、それでいい。 「だいたいそんなものは……俺たちには、もう要らない。必要ないんだ。そうだろ?」 ゆっくりと確認するように言い終えたときだ。青白い炎が体の芯に灯るような気がした。 さっき身体が置き忘れてきた快楽が今更訪れたかのように。 地獄の熱ってのがあるなら、こんな感じなのだろう。 それは恍惚感を伴っていた。 本当に熱くて、冷たい。 続く PR