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雑念手帳

サイトの日記ですが、同人サイト訪問者様用に公開されたJUNK妄想雑文メモ置き場兼ねてます。「何となくこのキャラのイメージで出てきた妄想だけど限定はしない」系の小説未満な小話がごっちゃりです。

鋼107話ネタバレ感想、および「強欲」論
少し遅ればせながらですが、ガンガン本誌の107話ネタバレ感想を、特にグリリン(とグリード)の描かれ方という点に特化して書きたいと思います。

個々人色々な感想があるかと思うんですが、先に言っちゃうと私の今回の感想は一ファンとしての喜びの文というより「作品批評」です。
しかも私は今回、グリリンの描写について若干疑問を持ってしまったため、全体的に調子が辛いです。
107話には100%感動した!という方には読みやすいものではないかもしれません。申し訳ないですが、一応お断りしておきます。
さて…。

まず、107話自体はスピーディで、劇的で、構図の選び方、コマ運び、演出、どれも素晴らしかったです。特にエドの腕が再生するシーンのくだりは圧巻で、息をのみました。このページ数で水増し巻のない展開を維持し続け、ハイクオリティのシーンをこれでもかと突きつけてくる。一人の表現者として荒川氏は本当にすごいと思った。

ですが大変率直に言うと、グリリンの描写は私にとってその中で唯一の不協和音でありました。正直、違和感を覚えた箇所でした。「強欲」の描写として説得力を感じなかったからです。

ここでもう一度流れを振り返ってみます。
あの中でグリリンは「俺の中にあった空虚は、満たされない感じは、仲間の不在故だった」「俺が欲しいのは世界の王になるような力じゃない、仲間だ」という結論に達しました。(台詞はそのままではありません。)
王になりたい、支配したい。あのときまでグリリンは少なくともそう思い、仲間のホムンクルスと競争し、出し抜くことを考え、父親をも出し抜こうと考えた。しかし、エドを見て競争の無意味を知ったというわけです。競争と支配のため己が強くなって戦うことより、仲間を取る生き方が尊いと思った。つまり競争と己の野心から「降りる」宣言をしたわけです。
物語としては美しいと思います。守る者のない戦いは意味がない、仲間を出し抜いて力を求めることは醜い。そういう形にストーリーを収めるためにあれは必要な展開でしょう。
あと、やおい愛好者としてはなかなかスイートでラブリーな瞬間だとも感じました。グリリンもエンヴィーのように寂しい子だったんだ…という。

しかしその一方でグリリン、それと彼の前にいたグリードという男性の設定から受け取っていた印象から、つい私はこうも思ってしまったわけです。
――そんなに簡単に、あのタイプの男性が力と支配への意志を捨てられるものだろうか?
――競争から「降りられる」ものだろうか?

要はリアリティを感じなかった。
四肢をもがれるような無力な状況になったならまだしも、まだ動ける、戦える、あの状況でそんな「改心」をとげるものだろうかと、つい感じてしまうのです。

この辺は個人の人生体験や経験に根ざす感覚なので正解などないのでしょう。
ただ、個人的な話ですが私は、競争や野心、支配欲といったものが、どれだけ人を捉え、その人生と価値観に食い込んでしまうものかということについては比較的よく知っているような気がします。
特にある種のタイプの男性はすさまじい。彼等と互してやっていくタイプの女性はもっとすさまじい。彼等ももちろん、口を開けば家族のためだとか、社会のためだとか言いますが、第三者としてみて思うに、それだけでは説明のつかない競争への愛みたいなものに身体を貫かれている気がする。何というか、彼等の中では生きることが競争することであり、王者を目指すことがよりよくあろうとすることであり、人生を愛することにもなってしまっているような…そういう人はいます。良くも悪くも、「競争することで人類は進化してきた。だから俺が強くなろうとすること、富を得ようとすること、必要ならば指導的立場につく(=支配とは紙一重)こと、それが集団としての人類を前進させていくんだ。」的な考えが身体に染みついていて、そして実際にそういう人の一部はそれなりの仕事をしてきた。
で、そんな彼等にとって降りることは死ぬことであり、そうやって死んでもいい。もしくは死ぬ寸前までいかなければとても降りられない。そういうリアルを生きて走ってる(または走りながら折れて死ぬ)。

少し話がずれましたが、要は個人的に「強欲」という言葉で割とリアルに思い浮かべるのがそういう人びとの姿であるがために、何かグリリンのあの反応は「強欲」としては随分「魂が弱い」なと感じてしまったわけです(この辺は足繁く通わせていただいてる某サイト様も触れておられましたが)。
言い方は悪いですが200歳を超えた魂があったはずのホムンクルスが、少年のリンにほだされて急にまるで「坊や」になってしまったように見えた。
かわいいし、話を回収するためには必要なシーンなのかもしれないけど、あの描き方だと「強欲」の主題は十分に消化されなかったと感じました。そう、七つの大罪がそれぞれ「お題」だとしたら「強欲」はコンプリートされていない、というのが率直な印象です。(ついでに「色欲」も微妙。「嫉妬」はよかったです。「傲慢」は…うーん、考えがまだまとまっていません。)

あともう一つ。これは単なるコメントですが、107話を見て、荒川氏にとっての「人間の条件」とは何なのかなということをふと考えました。
これも色々な答えがあると思うんですが、私自身は個人的に一つ譲れないものがあって、それは「自由」なんです。つまり他者の意志や状況に隷属しないということ。それが他の何よりも優越する。その後で「絆」がきます。自由があれば絆はあとからついてくるという発想なんです。どうしてっていわれても、身体の芯からそういう考え方が染みついているとしか答えようがない。

その感覚で見ていたから、初代グリードの死をみたとき、私はてっきり彼はあのとき人間のように「満たされた」んじゃないかと感じていたんです。だって自分の意志の自由を貫いたから。
そしてグリリンはあの瞬間を忘れたから「満たされて」いないのだろうと勝手に解釈していた。
でも107話を読んで初めて、むしろグリードには「仲間」がいない方が深刻だったらしいと知って驚いたわけです。

あと、これも述べておられる方がいましたが、タッグを組んだエドやキメラの人たちは「仲間」に値しないのか?という疑問も浮かんできました(あのとき「俺にはエドの持ってるモノがない」という反応だったようなので)。
つまり、人間とはそんなに一蓮托生の、まるで生死を共にする運命共同体のような絆で結ばれた他者がいないと「満たされない」ものだと思っているのか?という疑問を感じたのです。
もし仮にそうだとしたら、それは随分とハードルが高いというか、息苦しい「人間の条件」ではないだろうか、という気がします。私の読み込みすぎもあるかもしれませんが。

ただ一方でその息苦しさも、「絆」の方が「自由」に優先する価値観を持つ人にとっては、それこそが生の実感をもたらす何かなのかもしれない。そうも思います。つまり、そもそも個人の「自由」など霞んでしまうくらいの厳しい環境で、みんな平等に無力で支え合って、生半可な覚悟で他人が入り込めないようなタッグを組んで一丸となって進む。守り合う小さな家族のような小集団と共にあり、縛られながらもそのために生きること。そういう状態が心の原風景にあるような人はそれこそが「満たされた」人間の在りようだと感じるのでしょう。

色々と考えさせられた回でした。



それにしても、次回がもう最終回なのですね。
読むのがすごく楽しみであり、寂しいような気がします。鋼を読むのは本当に楽しかったから。

長くなりましたが、この辺で。
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コメント

1. 無題

興味深く読ませていただきました。

ただ私はグリリンのグリードは200年分の記憶は無いのだと思っているようです。
ただ魂に染みついた仲間の記憶、そしてそれがもう失われて戻らないということが分かる。
だから「生まれた時から」というのは今のグリードを指していて、今のグリードが欲していたのが「仲間」ということになるのではと思いました。
前のグリードは、手下と言ってても信頼して付いて来てくれる仲間がいて、そしてその上で目指したい事があって、最期もサキオさんの言うとおり完結してしまっていると思いますので。

来月で最終回ですが、リンの中のグリードはどうなるんでしょうね。
生き残るのか、何かが起こって消えてしまうのか…とても気になります。

2. 無題

コメントどうもです!
記事うpった後で「あ、グリリンと初代グリードがどの程度連続してるか、してないかについての議論し忘れた」と思ってたので、いい具合に欠けてる部分を補っていただきました。ナイスつっこみありがとうございます。

やはりグリリンの中の強欲の魂はほんとに「初期化」されてるというか、全体的に生まれたてのほやほやって感じに戻ってるんですか、ね?
そう考えると、確かにグリリンの中のグリードの行動やら言動には、一方で初代グリードらしさがありながらも、どこか思春期の少年的な…。ほほえましいというか稚いというか。そう考えると、グリリンのあの描写はキャラとしての一貫性はあるですかね…。
人間の「強欲」について描ききったかという問いはまあこの際おいておくとして。

リンの中のグリードは確かにどうなるんでしょうね~。
彼だけ特別扱いで残るというのは話の落とし前として正直考えづらいですが、とはいえ荒川氏が、単にかっこいい消え方をして終わりという単純な落とし前に持って行くとも思えないし…。
このラストのために書いてきた、的なことをどこかでおっしゃってたのを読んだんで、きっとあと一ひねり、すごいのが来るんだろうなあと期待していますw

ま、悪役好きの私としては、ホムンクルスの魂自体が飛び散って「でも忘れるな、我々はお前達の中にいる」みたいなオチが好きだったりするのですが。
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